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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

2022/02/15

genre : ニュース, 社会

 緒方の量刑を考えるにあたって考慮すべき「1つの要素」

〈長年の暴行、虐待、あるいは、松永の指示の下、本件各犯行へ加担させられること自体により、その心理面に大きな影響を受けたことは十分考えられ、正常な判断力が影響を受けていた可能性は否定できないと考えられる(緒方一家のうち和美〔緒方の母〕、隆也〔智恵子さんの夫〕、智恵子が松永に取り込まれてその支配下に置かれるや、短期間の内にその指示に唯々諾々と従うようになったこと、とりわけ、元警察官で、精神的、肉体的に何ら問題がなく、律儀で、意思を貫く性格と言える隆也が義父の死体の解体作業、義母及び妻の殺害並びに各死体の解体作業にさしたる抵抗もせずに加担するなどしていることは、松永の人心操縦技術が巧妙であり、かつ、通電等の虐待が、被害者らの人格に少なからぬ影響を与えたと考えなければ到底理解できない。)。したがって、この点は、緒方の量刑を考えるにあたって、考慮すべき1つの要素となると考えられる〉

 ここでわざわざ末尾の一文が加えられていることは、大きな変化の第一歩だった。

小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

松永は「死刑が選択されるべきは当然」、一方緒方の量刑は…

 判決文はいよいよ〈量刑について〉触れる。「量刑不当」を訴えているのは緒方側のみだが、〈事案の重大性にかんがみ〉まずは松永の量刑について検討内容が説明された。ここでは前半の犯行内容についての説明は省き、結論部分のみを挙げておく。

〈本件の罪質、動機、態様は極めて悪質なものであり、その犯罪件数は多く、ことに殺害された被害者の数は殺人6名、傷害致死1名であり、被害者らから奪われた金銭は合計数千万円に及ぶ等の事案の重大悪質性、遺族の松永に対する被害感情は極めて強いこと、本件の社会的影響、被告人松永には真摯な反省が見られないことなど、本件に現れた諸事情に照らせば、本件の刑事責任は極めて重大であって、特に、主犯である被告人松永については、原判決のとおり、死刑が選択されるべきは当然である〉

 続く緒方の〈量刑について〉は、一審の判断とは異なる、特筆すべき部分を抜粋する。

〈松永に対しては、強い恐怖心があって、その意向、指示には逆らえず、本件の各犯行に加担してしまった面も強く、これら虐待の影響により、あるいは、松永の指示の下、本件各犯行へ加担させられることにより、心理面に大きな影響を受け、正常な判断力がある程度低下していた可能性は否定できず、むしろ、次のような、緒方が置かれていた特殊事情の下においては、緒方について、適法行為の期待可能性は、相当程度限定的なものであったと考えられる〉

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