北京オリンピックスキージャンプの新種目・混合団体で日本の1番手を任された高梨沙羅選手がスーツの規定違反で失格に。涙を流しながら臨んだ2回目で、高梨選手は日本の順位を押し上げたが、ショックでなかなか立ち上がれない様子を見せた。全日本スキー連盟は、国際スキー連盟に対して検査のあり方などについて意見を添えた文書を提出する方針だという。
高梨選手が10代の頃から取材を続けているスポーツライターの松原孝臣氏がソチ五輪前に寄稿した「高梨沙羅 私は鳥のように飛びたい」(「文藝春秋」2014年2月号)を再録する。(全2回の1回目/後編に続く)
(※年齢、日付、肩書きなどは掲載当時のまま)
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堂々と英語でやりとりする17歳の高梨
現地時間2月7日、ソチ五輪が開幕する。フィギュアスケートの浅田真央をはじめメダル獲得の期待が寄せられる選手がそろう今大会だが、その中で「最も金メダルに近い」と言われる選手がいる。今大会から採用されたジャンプ女子の高梨沙羅だ。
ここ数年の実績がそれを裏付ける。特に12~13シーズンは、ワールドカップ全16戦のうち8大会で優勝し、3位以内に入ったのは実に13回を数える。5割の確率で優勝し、そして8割を超える確率で表彰台に上るという圧倒的な成績で、ワールドカップ総合優勝を果たしたのだ。
新しいシーズンが始まっても、高梨の強さに変わりはなかった。
昨年12月7日、ノルウェー・リレハンメル。20年前に五輪が行なわれた地でのワールドカップ開幕戦で、高梨は2位以下に大差をつけて優勝。試合後には、当地のテレビ局によるインタビューがあった。
――Congratulations! How do you feel?
“I'm so happy.”
――Do you like Lillehammer, do you like this feel?
“I like it.”
英語の質問を確実に聞き取り、的確に、シンプルに答える。高梨は17歳、高校2年生である。大人の選手でも通訳を介することは珍しくない。ところが、臆することなく、堂々と英語でやりとりをする姿もまた、世界で活躍する選手であることを思わせる。
90年代後半、日本ジャンプが世界を席巻したことがあった。長野五輪でラージヒルの船木和喜、そして団体と2つの金メダルを獲得したのだ。だが長野を頂点に低迷期に入って久しい。ジャンプばかりではない。スキー競技は、02年のソルトレイクシティ五輪のモーグルで里谷多英が銅メダルを獲得したのを最後にメダルがない。その中で誕生した世界女王だ。不振が続いてきたジャンプ、いやスキー競技全体から期待が寄せられている。
高梨本人も「やるべきことをやっていけば、結果はついてくると思っています」と世界一への意欲を示す。
日本で最も金メダルに近い少女――その素顔を追った。