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2022/02/23

 駐屯地に侵入したクマは「飛行場地区」の滑走路を横断し、柵を南東方向から乗り越えて、駐屯地の外へと走り去ったが、上空からヘリがその姿をしっかりと捕捉していた。

 クマは畑の周囲にめぐらされた深い側溝を抜けて、駐屯地から300メートルほど北にある緑地に入り込むと、ようやく動きを止めた。ほどなく斎藤や警察、市役所の職員らも現地に到着し、周辺の人々を退避させたうえで、対策会議を開いた。

 ここが最後の現場となる。

ハンターの背筋がスッと冷えた

 現場は畑とビニールハウスの間にある横30メートル、縦50メートルほどの空き地で、上空から見ると右辺を側溝に接し、下辺にイタドリなどの雑草が生い茂る茂みがある。クマが隠れているとすれば、この中のはずだった。ここで東警察署の警視が斎藤にこう告げた。

「いま、警察官職務執行法に基づく発砲命令が出ました。あのハウスに当たらないように撃ってください」

 斎藤は藤井と共に、人の背丈ほどもある茂みの中に銃身を突っ込むようにして、分け入っていく。

「正直、気持ち悪いわなぁ。先が見えないところにクマが隠れているかもしれないわけだから」(斎藤)

 細心の注意を払って茂みの中にクマの痕跡を探す。あれだけの体重の動物が通り抜ければ、草が倒れているはずだ。だが、その痕跡がない。やがて茂みを通り抜けてしまった。

 そこで斎藤はクマが通ってきたという側溝から念入りに調べた。

「そうしたら足跡があった。ここから上ったんじゃなかろうか、と思って、そのあたりのモサ(茂み)を覗いたら、草が寝てるのさ」

 斎藤は倒れている草の跡を辿り始めた。今度は野生動物の調査を行うNPO法人「エンヴィジョン環境保全事務所」の早稲田宏一研究員と一緒だ。20メートルほど進んだところで、斎藤の足が止まる。倒れている草が急に無くなったのだ。

「コイツ、“止め足”使ったか?」

 斎藤の背筋がスッと冷えた。

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