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2022/02/23

「カズ、おめえも撃て」

 無心で引き金を絞る。銃声が響く。

 疾走していたクマの腰がグラリと揺れた。クマは一瞬振り返って斎藤たちの方を睨みつけると、茂みの中へと逃げ込んだ。

 左太ももに命中した手応えがあった。斎藤らは反撃を警戒しながら、慎重に近づく。大量に出血したクマは草の中にうずくまり、「フーフー」と唸りながら斎藤たちを睨むが、動けそうにはなかった。斎藤は躊躇なく首に2発打ち込むと、「カズ、おめえも撃て」と藤井を促した。さらに1発。クマの掌が開いた。

「クマが本当に絶命したときは、掌が開く。逆に撃たれても、掌が閉じているときは死んだフリで、最後の反撃を狙っているもんだ。死んだと思って無防備に近づいてきたハンターを、急に立ち上がって叩き殺すことだってある。掌が開いてやっと『死んだ』と分かるんだ」(斎藤)

 11時16分。未明に寄せられた最初の目撃情報から9時間後、機動隊を含む総勢105名の警察官、車両39台、ヘリ3機を投入した「大捕物」は幕を閉じた。4人を襲ったクマは、体長161センチ、体重158キロ、4歳のオスだった。これだけの大きさのクマが、斎藤らが何度もその横を行き来した草むらに潜んでいたのである。

「ヒグマっていうのは、膝丈ほどの草があれば、四肢を投げ出して地面に張り付いた体勢で1時間でも2時間でもジッと隠れている。コイツもやはり『止め足』を上手に使って、隠れていたわけです」(同前)

体重158キロのオス ©時事通信社

 今回のような状況でクマを撃ったのは、斎藤も初めてだという。

「オレが撃つ(ニュース)映像を見たハンター仲間に『下手だなあ。あんなのネック(首)一発だろ』なんて言われたけど、こっちに尻向けて逃げてるヤツの首をどうやって撃つのよ」と斎藤は苦笑するが、もしここで仕留めることができなければ、さらに被害が拡大していたであろうことは想像に難くない。長年の経験のなせる「入魂」の銃撃だった。

(文中敬称略、#3に続く)

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