昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「口の中に銃身突っ込んで…」一発で仕留めきれなかったヒグマの“執拗さ” 一瞬で四つん這いになり真っ赤な口が見えた

#3

2022/02/23

街中で人間を襲い続けるクマにハンターは……。「文藝春秋」3月号より、ライターの伊藤秀倫氏による「羆を撃つ 札幌4人襲撃事件」を全文公開します。(全3回の3回目/#1#2から続く)

◆ ◆ ◆

なぜ街の真ん中に現れたのか

 それにしても、なぜこのクマは、人間も車も行き交う街の真ん中に現れたのだろうか。道総研の釣賀研究主幹はこう推測する。

「分散期の若いオスは新たな環境へ行動範囲を広げるとともに、5月から7月にかけてはクマの繁殖期にあたるので、交尾相手のメスを求めて、広範囲を移動する時期ではあります。とはいえ、あんなところに出るのはレアケースです」

 その後の調査で、このクマは札幌から北東に20キロほど離れた当別町方面の山間部から出て、石狩川を渡り、事件前から茨戸川緑地近辺で目撃されていた個体と同一個体と推測された。交尾期のオスは、1日に10キロ移動することも稀ではない。

 茨戸川緑地から現場までは、7、8キロの距離で、その間には川に沿って緑地帯などが点在し、クマはこれらを伝って市街地にやってきた可能性が高い。興味深いのは、この緑地帯は「クマとの共生」を掲げる行政などが野生動物保護の目的で設置したものだった点だ。

「保護の観点からみれば、クマが実際に緑地帯を使ってくれたわけで、『成果』ともいえます。しかしその結果として、市街地まで来てしまい、捕殺せざるを得なかった。『共生』というのは、クマが『いていい場所』と『いてはいけない場所』を厳然と色分け(ゾーニング)することに他ならない。そのうえで、クマが『いてはいけない場所』に入ってこないように万全の対策を行い、万が一入ってしまった場合には、全力で排除するしかない。ただこれは本当に難しい課題です」(同前)

「クマとの共生」という理念は大前提としては正しい。だが、そのためには、我々はもっとクマのことを知る必要があるのではなかろうか。

写真はイメージです ©iStock.com

 この事件で最も大きな「謎」は、3件目の襲撃にある。

 実はこの襲撃の瞬間は動画に記録されている。歩道を歩く被害者を後ろから駆け寄ったクマが襲う様子を、自宅の2階と思しき場所から周辺住人が撮影した映像は〈視聴者提供〉としてニュースでも流された。

「ああいう映像を見たのは、私は初めてですね」と驚きを隠さない釣賀は、その直前の2件の被害との違いを次のように説明した。