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2022/02/23

クマが人を襲った“執拗さ”

「1人目と2人目の被害者は、クマの進路上に折悪しく居合わせてしまった結果、後ろから『踏みつけられてしまった』状態です。ところが3人目の被害者の方に対して、クマは背後から右上腕部を一撃し、引き倒した後、噛みつくなどして計4回加害しています。映像を見る限りでは、積極的に襲っているように見える。この前の段階で何があったのかわかりませんが、かなりの興奮状態であったことは間違いない」

 一方で、車の中から襲撃の場面を直接目撃し、さらに動画でも改めて確認したという斎藤は「おかしいべ?」と首をかしげる。

「『あれ』がわからないんだ。だって2回襲っているからな。引きずり倒した後で、わざわざ振り返って、無抵抗な相手をもう1回襲っている。逃げるときに目の前に人がいて邪魔くさいから倒した、というだけでは説明がつかない」

 クマが人を襲うときには、必ず理由があるが、その「執拗さ」は斎藤ですら理解に苦しむものだった。

 だが野生動物である以上、人間の想定を越えるクマは常に存在する。「前も一頭だけいたな」と言う斎藤は7、8年前の出来事を話し始めた。

「真っ黒いのがシカを追って」

 その日、1人で猟に出た斎藤は、見事なエゾシカのオスを仕留めた。リュックに獲物を背負い、ホクホク顔で戻る途中、気になる鹿道を見つけ、覗いてみる気になったという。

「まあ、スケベ根性だよね」

 すると左から右へ、メスのエゾシカ3頭が道を横切った。一瞬、ライフルを構えたものの、すぐに降ろした。既にオスを獲っていたので、メスを獲る気になれなかったのだ。

写真はイメージです ©iStock.com

「銃を降ろした途端よ、真っ黒いのがシカを追って出てきたんだ」

 堂々たる体躯のヒグマだった。斎藤に気づいたクマは茂みの中でピタリと止まった。距離は80メートル。だが斎藤の位置からは、草の間からかすかにお腹の部分が見えるだけ。「こんなもん、撃つもんじゃない、本当は」と斎藤は反省するが、このときは撃った。するとクマはドタっと仰向けに倒れて、空中を掻くように四肢を動かしている。

「あちゃあ、やっぱり『半矢』(一発で仕留めきれなかった状態)になっちゃったか」

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