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「未だに日本が世界一だと勝手に考えているだけなのです…」中国に移住した“サラリーマン漫画家”が語る“日本漫画界”のリアルな現状

『架僑 中国を第二の故郷にした日本人』より #1

2022/03/02
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 日本の漫画といえば世界に名だたる文化であり、アニメーション作品とともにクールジャパンを牽引するコンテンツといっても過言ではない。それにもかかわらず、日本を飛び出し、中国でサラリーマン漫画家となった男性がいる。彼が目の当たりにした日中の漫画界の違いとは……。

 ここでは中国在住のドキュメンタリー監督、竹内亮氏の著書『架僑 中国を第二の故郷にした日本人』(KADOKAWA)より一部を抜粋。中国在住の「サラリーマン漫画家」浅野龍哉さんが語る日本の漫画界の現状について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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中国式の漫画ビジネスとは

 浅野さんは会社に出勤して漫画を描く、いわゆるサラリーマン漫画家だ。給料も基本的には定額である。

「給料はいくらですか?」

「1万2000元(約20万円)です」

 日本では、初対面の人に給料を聞くのは失礼な行為だが、中国ではそこまで失礼には当たらない。私も知らないおばちゃんと話していると、よく聞かれる。

 ちなみに、私の給料は全て妻が管理しており、本当にいくらなのか知らないでいる……。

 話を戻すと、日本の漫画家は、出版社から1ページ毎の原稿料をもらいながら雑誌連載し、単行本化やアニメ化によって印税やマージンを受け取る仕組みだが、この会社は少し違う。基本の固定給が5000元とすると、描いたページ数が5000元に満たない場合は固定給の金額が支払われ、5000元を超えるページ数を描いた場合は、5000元に追加された金額が支払われる。キャラクターがグッズ化された場合などもマージンが入る。

©iStock.com

今中国で日本好きな人たちの多くは、「90後」の若者たち

 浅野さんと一緒に職場に入ると、部屋一面に広がる漫画の量に驚いた。そのほとんどが、日本の漫画なのだ。『ワンピース』から『ドラゴンボール』、私が子供の頃に好きだった『キャプテン翼』から、私が知らない最新漫画まで、古今東西の漫画の単行本がずらりと揃えてあった。

『ジャンプ』や『マガジン』などの少年漫画誌、『リボン』や『マーガレット』などの少女漫画誌、『モーニング』などの青年漫画誌など、無数の漫画雑誌がある日本と比べて、中国では数えるほどしか漫画雑誌は存在しない。よって、雑誌はメジャーな存在ではない。だから、これまでは中国で漫画イコール日本の漫画であった。1990年代生まれの「90後」たちは、子供の頃に日本の漫画を読んで育っているため、日本人の私よりも日本の漫画に詳しい。

 今中国で日本好きな人たちの多くは、「90後」の若者たちだ。彼らは、50代から60代の大人たちがいくら日本を否定しても、影響されずにいる。

 日本の漫画が中国数億人の若者の心に及ぼした影響は、計り知れないほど大きい。ある意味、ノーベル平和賞を与えてもいいぐらいの貢献をしたと思っている。

 書棚の漫画を手にとってみると、セリフはもちろん中国語である。ただ、印刷の質が悪く、所々絵が擦れている。

「それは盗版(コピー商品)ですよ」