「シリンジ(注射器)を使うと、精子が空気に触れリスクがある」

「タイミング法(セックス)の方が妊娠確率は高い」

 SNSで知り合った精子提供ドナーの男は、こう語って直接セックスをする提供方法にこだわった。女性はしぶしぶ了承するが、男は行為時に身体を舐め回してくるなど、その姿勢は精子提供というよりも文字通りの“セックス”だった。これは本当に善意の精子提供だったのか――。

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大きな批判を呼んだ「虚偽精子提供裁判」

 昨年12月、港区在住のA子さんは、精子提供ドナーのB氏に対して、学歴や国籍を偽ったことで精神的苦痛を受けたとして、約3億3000万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。

「港区在住の会社経営の女性A子さん(30代)は、夫との間に第一子が生まれましたが、夫に遺伝性の難病の疑いがあることが判明。第二子が欲しかったため、SNSを通じて精子提供ドナーを探し始めました。募集にあたって定めた条件は、『東大卒である夫と同等の学歴』、『配偶者などがいないこと』、『日本人であること』などでした。条件に合致すると思ったB氏と連絡を取り、精子の提供を受け、第二子を出産しました。

 しかし妊娠中にB氏が、静岡大卒の既婚者で中国人だったことが発覚。中絶可能期間を過ぎていたため2020年に出産しましたが、ショックから『子どもの顔が見られない』状態に陥った。東京都が同居不可能であると判断したため、子どもは児童養護施設に預けられることになりました」(大手紙社会部記者)

 この報道のあと、原告であるA子さんへ集まったのは同情などではなく、多くが批判だった。夫と同等の学歴を求めた点について「学歴主義」であり、生まれた子どもを児童養護施設に預けたことについては「無責任」。SNSを利用した個人間での精子取引を行ったことで「自業自得」だという声があがった。

 なぜA子さんは、危険の多い個人間での精子取引を望んだのか。そしてなぜ、相手に「東大卒の夫と同程度の学歴」を望み、生まれたばかりの子どもを手放したのか――。

 その理由について、訴状を元に紐解いていきたい。(全2回の1回目)

◆ ◆ ◆

精子提供を行っているTwitterアカウント

 訴状によると、A子さんは夫に遺伝性の難病の疑いがあることが判明し、希望していた第二子の出産を諦めかけていた。

 そんな中、2019年3月上旬に、ネット上でドナーを探し、精子提供を受けているケースがあることを友人から聞いた。しっかりとした制度がなく、身元がよくわからない精子ドナーから精子提供を受けることに強い抵抗感を感じたが、興味も持った。