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《どうしますか。僕に申し込むつもりなら他の人を断ります》

 しかし初回の面会の後、A子さんはB氏からの精子提供に前向きではなくなっていた。A子さんは、条件に合致することを裏付ける資料などを確認したかったが、B氏が社員証の名前を隠して見せる程度だったため、これ以上は望めないだろうと考えたのだ。

《今日はありがとうございました。精子提供はとても大事なことなので、いったん慎重に考えさせていただき、また連絡させていただくことがあるかもしれません》

 A子さんはB氏にこうDMを送り、ほかに4人の候補者との面会を進めていた。すると数日後にB氏から《どうしますか。僕に申し込むつもりなら他の人を断ります》といったDMが届いた。

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シリンジ法の際に使うシリンジ ©文藝春秋

 やんわりと断ったつもりだったA子さんは、B氏からの連絡を意外に思ったという。しかし、もしかしたら資料などを見せてくれる気があるのかもしれないと考え、再び会うことを決めた。

B氏の経歴について新たな情報は得られなかったが...

 2019年4月11日、港区・六本木でB氏と再び面会した。A子さんはB氏の子供時代の気質、塾に通っていたか、文系なのか理系なのか、努力タイプか天才タイプか、家族関係は良好か、家族に精神病やがんの人はいないかなど約10の質問をまとめたリストを持参し、B氏に実際に聞いた。

六本木の街 ※写真はイメージです ©IStock.com

 B氏の経歴について新たな情報は得られなかったが、京大経済学部卒といったこれまでの発言の信用性を疑わせるような回答もなかった。

 B氏の“自己PR”はより勢いを増したという。

 指で名前を隠して社員証を再度見せ、運転免許証や保険証も同様に提示してきた。社章(バッジ)も見せ「証券アナリスト」の資格があると主張し、LINEのグループトークの画面を示しながら「幹部候補の社員なので採用関連業務にも携わっている」と、自身の有能さについて語った。

 一方のA子さんは、先に挙げた条件のほかにも、同じ人の精子提供によって複数の子を出産したいと考えていた。

「精子提供を受けて1人目の子が産まれた後、2人目の子を産むために精子提供を受けることは可能ですか」

 するとB氏は可能だと答えた。

 依然として本名を明かさないB氏だったが、条件に合致する人物であることは間違いないと考え、LINEの連絡先を交換した。ついに精子提供が始まったが、その方法はA子さんの希望とはまったくかけ離れたものだった――。