10回程度の性交による精子提供のなかで、A子さんは性交痛に苦しんだ。出血も複数回あったという。性交時には、内服薬などで妊娠をしやすい状態をつくる上、行為自体の時間もある程度かかるため日程調整が必要だが、B氏は仕事が忙しいなどといった理由で、A子さんに予定を合わせるよう要求してきた。訴状にはこう記載されている。
〈B氏は精子提供の際には妊娠に関係のない、A子の身体を舐めるなどの行為を毎回してきたことからA子は「タイミング法による精子提供は精神的・肉体的負担が極めて大きい」と強く思うようになった〉
あるときにはこんなこともあったという。
A子さんは「リョウさんも仕事が忙しくて時間がないようなので、お互いに負担の少ないシリンジ法で精子を受け取りに行っていいか」と聞き、B氏は了承した。待ち合わせの日、A子さんはB氏の勤務先から近い東京駅近辺にシリンジを持参し、精子を採取する場所は「周囲の商業施設や駅にきれいなお手洗いがあればそこでよい」と提案した。
根拠なき主張「シリンジ法は奇形児が生まれるリスクが」
しかし実際に会ったB氏はまたもシリンジ法を拒否したのだ。
B氏「シリンジ法は奇形児が生まれるリスクが高い」
A子「調べた限りそんなことはない」
B氏「精子を空気中に出すから、当然何かしらリスクがある」「何かあったら心配なので」
A子さんは、手のひらを返すようにシリンジ法を拒むB氏に対して強い怒りを覚えた。しかし、この日にあわせて受精卵の着床を補助する内服薬の処方を受けるなど妊娠に向けて入念な調整をしていた。また、この日まで精神的、肉体的負担を我慢して性交による精子提供を受けてきたことも脳裏をよぎった。
何度もマンガ喫茶での性交を提案
A子さんは仕方なくまたもB氏との性交を受け入れた。ところが、B氏は耳を疑う提案をしてきたという。
B氏「近くのマンガ喫茶かネットカフェでしよう」
A子「そういう場所での性行為は禁止されていると思う」
B氏「皆やっているよ」
何度もマンガ喫茶での性交を提案してくるB氏。それでも断り続けると、B氏は苛立ちながらスマホを調べ「この辺にはラブホテルとか全然ないみたい。一番近いのが六本木かも」と話した。
A子さんはやり取りに疲れ応じる気にはなれなかったが、それまでの我慢や努力を無駄にしたくないという思いで、六本木のラブホテルで性交をした。このときの精子提供について訴状にはこうも書かれている。
〈B氏は膣内から陰茎を抜くなど、故意に射精を遅らせ、性的な快楽を得ようとしたようだ〉
不本意な方法で精子提供を受けていたA子さんだが、2019年中に妊娠検査薬により妊娠が発覚した。B氏には不信感が募っていたが、再び精子提供を受ける可能性もあったため、B氏の性格や気質をもっと知るために妊娠発覚後も連絡を取り合っていたという。
しかしB氏は、年上のA子さんを「お前」と呼ぶなど、次第に攻撃的な態度になっていった。