起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。
もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第94回)。
松永から速達で届いた手紙
2008年11月、松永太と最初の面会をし、その後すぐに彼からの手紙を受け取ったのだが、時を同じくして元厚生事務次官らへの連続殺傷事件が発生するなどして、私はその他の取材に忙殺されていた。
松永に対しては、彼からの手紙を確かに受け取ったこと、裁判資料を精査してこちらから改めて連絡を入れる旨を葉書で伝えてはいたが、追加の連絡や、実際に福岡拘置所を訪ねての面会には至らなかった。
そうしたところ、12月中旬に業を煮やした松永から、表面にピンク色のマーカーで〈速達〉と3カ所に念押しされた封書が届いた。
〈乱文乱筆で失礼します!〉との書き出しで始まる文章には、〈前略、おはがきをいただいてご連絡を待っておりましたが、作家という仕事上、しめ切り等もあって筆が忙しくあられるものと推察した次第です〉と、苛立ちを押し殺した言葉が続く。
やはりここでも松永が訴えるのは、〈裁判上の認定(誤認)とは異なった事実を描出〉(※松永の表現)してくれというものだった。
不平不満の言葉が続く
松永によれば、控訴審を争っていた際に彼が事実関係を分析した原稿1000枚以上を、東京の弁護人に預けており、さらには別に控訴審での陳述書も500枚以上あるという。
〈裁判所という一種の機関は、今ではもうほとんど事実を発見するしくみを機能しなくなってると思います〉
〈裁判ではあおりを受けた感情がさかまくことがよしとされ、裁判官は、それらマスコミや一部の作家のアジに乗っかった意味不明の判断を次々にじっこうしてしまっています〉
〈これらは過去の世の大政翼賛的世の中の流れに乗ったものといってもいいと思います〉
〈いわゆる魔女裁判のようなものになっていくことでしょうし、日本はくずれの道を歩くことにつながると思います〉
こうした不平不満の言葉が続く。そしてここでもまた、「松永が主犯で緒方(純子)は従犯」であると主張していた作家の故・佐木隆三氏の存在を持ち出し、〈小野さんはそこにおちいらないでください〉と念を押すのだった。そのうえで松永は訴える。