《30代、179センチ、二重、直毛、35人誕生、3親等以内精神疾患なし、出自を知る権利対応》《20代後半、173センチ、性感染症検査済み、コロナワクチン接種済み》《東工大現役合格&修士卒、武道有段者》……
Twitterで「精子提供」と検索すると、スクロールしきれないほど多くのアカウントが存在する。そのどれもがプロフィールや投稿で「自己PR」をしている。フォロワー数は、数人から1000人超えまでさまざまだ。学歴など詳細なプロフィールが分かるアカウントほど、フォロワー数も多いようだ。「精子提供で副業を行いたい方募集、2万~10万の副収入を確約」といったものまで見つかった。
「Twitterでの精子提供ドナー募集が盛んに行われ始めたのは5、6年前頃。それからはずっとめちゃくちゃな状態が続いています。候補者自体の危険性、精子の質、倫理面など問題は山積していて、間違えてもおすすめはできません」
こう話すのは、長年、大型の医療施設で男性の不妊治療を専門として診てきた岡田弘医師だ。岡田医師は「みらい生命研究所」を設立し、安全な精子バンク事業を行うための準備を始めている。
「完全に不採算」でも精子バンク事業を立ち上げるワケ
「完全に不採算で、倫理的に批難される可能性もあります」
それでもこの事業を実行しようとしているのは、子供を諦める家庭の多くの辛酸をみてきた経験があるからだ。特に、男性不妊の代表的な原因である「無精子症」は、治療をしても結果につながることは少ないという。
「治療によって無精子症がよくなってその後、出産につながるケースもあります。しかし、無精子症の方の80~85%はどうしても子供ができないんです。私は約20年で2400人に『子供ができない』と“死刑宣告”にも等しい診察をしてきました」
夫の精子ではどうしても子供がつくれない場合の夫婦の選択肢は主に3つだ。
(1)夫婦2人で仲良く生きていく
(2)養子縁組
(3)第三者から精子の提供を受けて人工授精する
「私や所属している獨協医科大学は『(2)養子縁組』を積極的に進めてきました。親のいない子供の問題解決にも繋がりますし。しかし妊娠の可能性がある女性側が、自分の子供を欲しがる心情も理解できます。だからやはり『(3)精子提供ドナーによる人工授精をする』を希望する方は多いんです。
それでも国内では仕組みが追いついていないのが現状です。子供を持つことを諦めているご夫婦が大半。これが、私の長年の悩みでした」