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 そしてここへきて、インターネットやSNS上に“危険な”精子提供者が跋扈し始めたわけだ。岡田医師が精子提供の実態を明らかにするため、数年前に精子提供者やボランティア、精子バンクの140件のサイトを精査したところ、その多くが安全性に疑問を持たざるを得ない状態だったという。

「検査の不備が多い」あまりに危険な精子提供の実態

「感染症検査や遺伝検査などの不備が多く、少なくとも安全な可能性があるのはたった5件でした。この5つのサイトのうち、3つは海外施設での人工授精を行うため、渡航費用などは数百万円単位での資金が必要になります。それも、今はコロナでストップしているでしょうね。

 実は、日本でも産科婦人科学会が認定している人工授精に対応した医療施設はあるんです。ただわずか12施設で、実態として稼働できているのは5施設程度。その施設もドナー不足などの問題を抱えています」

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 産科婦人科学会が認定しているこれらの医療施設では、精子提供ドナー不足から提供決定に至るまでに相当な時間がかかってしまうという。一人ひとりの患者の通院が長引く傾向があり、新規患者の受け入れも少ない。

 しかし、なぜSNSには精子提供ドナーが溢れているにも関わらず、医療施設ではドナー不足に陥っているのだろうか。

精子提供を行っているTwitterアカウント

「SNSなどでは『感染症の検査をした』と謳っているドナーや施設もありますが、例えばエイズの原因になるHIV(ヒト免疫不全ウィルス)の感染を調べる検査は、半年ほど期間を開けて、専門的な2回の検査が必要なんです。そうしたことを経て初めて安全な精子提供ができる。ドナーの選定には時間もかかりますし、候補者の全員が適格とは限らない。SNSでの精子提供者や、インターネット上にある精子提供バンクがそういったことをしっかりとやっているのかは疑問です」

 そのため、“普通の家庭”が正規のルートで精子提供を受けるのは極めて難しいのが現状なのだ。しかしSNSなどでの“闇精子提供”にはトラブルがつきまとう。「#1」「#2」で報じたA子さんも、国籍や学歴、配偶者の存在などを偽られたとして、精子提供ドナーのB氏に対して3億3000万円の損害賠償を求める訴訟を提起した。

A子さんとB氏のやりとり ※訴状内容を参考に作成 ©文藝春秋

「先ほどお話しした140件の調査の過程で、さまざまなトラブルが起きていたことも分かりました。提供時の性行為や、経歴の詐称といったトラブルが相次ぎ、家族に内緒で提供を受けていた女性が『旦那に言うぞ』とドナーから脅されていたケースもあります。

 もちろんなかには善意から精子提供を行っている人もいることでしょう。自ら選んでシングルマザーになる人やLGBTのカップルの役に立ちたいという明確な動機がある方もいると思います。しかし医者という専門的な立場からだとどうしても安全面が不足しているように感じました」