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 SNS上では多くの精子提供の実績があるとアピールするアカウントもあるが、将来の近親相姦などの可能性も考えて、ひとりの精子提供は10人までが望ましいという。しかしそうしたリスクにまで考えが及んでいる個人ドナーは多くはないだろう。

 現在、「みらい生命研究所」でドナー候補として精子を保存しているのは約20人。全員が医療関係者だという。精子の質などの検査、心理テストなどのスクリーニングをした結果、安全な提供が可能なのは候補者の2~3割程度だったという。

精子を保管する容器 ©文藝春秋

「私の活動を知って、一般の方からもたくさんの申込みがありました。ただ、現在は断っています。子供が好きで役に立ちたいという善意の応募も多いのですが、今は身内ともいえる医療関係者に限っています。どんな人なのかという情報もあつまりやすいですからね」

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精子ビジネスで「デザイナーベビー」が問題に 

 ドナーが20人程度だと、例えば容姿や学歴などの条件を選択する余地があるとはいえない。しかし岡田医師は「選べないことがなんなんだ」と語気を強めてこう語った。

「容姿は本当に大切なことなのでしょうか。さまざまなことを条件とすると、デザイナーベビーとして倫理的にも理解が得られないのではないでしょうか。この分野ですべてが叶うわけではないんです」

 いま、生命科学の分野では『デザイナーベビー』が危険視されている。デザイナーベビーとは、受精卵の時点で遺伝子操作を行って、特定の疾患を防いだり、親の好みに合う容姿や能力を身につけさせた赤ん坊のことだ。倫理的にも技術的にも様々な批判を呼んでいる。

 また、産科婦人科学会のガイドラインには、第三者による精子提供にあたっては「提供者が健康であること、本法(精子提供による非配偶者間人工授精)が非営利で行われる医療行為であること、出自を明らかにしないが記録を保管することなど」が条件として示されている。

精子の状態を分析する研究員 ©文藝春秋

「そもそも精子提供はビジネスとして利益を得てはいけないんです。それは生命倫理や健全な社会を守るためには踏み外してはいけない。SNSで“副業”として精子提供をしたり、法外な金額を設定することはあってはならない。でも、私の医師人生のすごろくのあがりとして、精子バンク事業は本当に子供が欲しい人のために、あらゆる危険性を排除して取り組んでいきたいんです」

 少子化が進む日本で、希望しても子どもを授かることができない人も多い。精子提供という新しい分野は今後どのように発展していくのか、注目が集まる。

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