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しかし、松栄米穀時代から使っていたなにも書かれていない軒先の黄色いテントは、そのまま使用することにした。気に入っていたこともあるし、参考にした國分さんの「凛」も同様に、ぱっと見、なんのお店かわからなかったということもあり、「これでいこう」と考えたのだ。

一般的な飲食店の経営者からすると、店の印象を大きく左右する店舗用テントを新調せず、店名も書かれていない古びたテントを流用するなんて、常識外れもいいところだろう。しかし、パッと見てわかりやすい情報がないことに加え、ガラス張りで清潔な雰囲気の内装とのギャップになり、「なんの店だろう?」と思わず足を止めてしまう効果を生んでいる。これは、大曾根の狙い通りだった。

店を始めるにあたって、いい商品を仕入れなくてはならない。牛肉について素人の大曽根は、國分さんが利用している業者を紹介してもらった。ところが、交渉段階で肉の値段が急上昇し、「これではお客さんに安く提供できない」という状況に陥った。

店の改装は進んでいるのに肉の当てがない……という大曽根を救ったのは、またも友人ネットワーク。テニススクールの仲間が、肉の卸業者をしていたことを思い出した。連絡をすると、アメリカ産牛肉を破格で卸してくれることになり、ピンチを脱した。

飲食店経営のセオリー無視、というより、セオリーを知らない大曽根は、大胆な決断にも躊躇がない。スタッフを雇わず、ひとりで運営している國分さんに倣って、開店後のオペレーションもひとりでやることに決めた。

「凛はラーメンのおいしさに加えて、空間が素晴らしいから、お客さんが絶えないんだと思います。一人であの杯数をさばいているラーメン屋って、ほかにないんじゃないかな。それでも、お店はいつもきれいで、接客も心地いいんですよ。その國分さんに『ひとりでやるからこそいいんじゃない、なんとかなるよ』と言われて、僕もそうすることにしました」

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