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佐藤優が間近で目撃したプーチン大統領の“決定的な弱点”「対外諜報員としては美点だが、政治家としては損をする」

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2022/03/23

source : 文藝春秋 2005年12月号

genre : ニュース, 社会, 国際, 政治

 会談が終わるとプーチンは通訳の私を呼び止めた――。作家の佐藤優氏による「死神プーチンの仮面を剥げ」(「文藝春秋」2005年12月号)を特別に再録します。(全2回の2回目/前編から続く)

プーチン大統領 ©JMPA

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プーチンの素顔は一瞬しかない

 私はプーチン大統領を分析するときにいつもその表情に注目している。私の見立てではプーチン氏はいくつもの仮面をつけている。素顔のときは一瞬しかない。そして、仕事をするときには絶対に素顔を見せない。これは対外諜報員としては美点だが、政治家としては損をする。また、プーチン氏の情報に対する取り扱いも典型的な対外諜報文化が現れている。プーチン大統領は様々な情報を吸収する。しかし、プーチン氏自身が何を考え、どのような行動をとるかについて判断するヒントになる情報のフィードバックが全くないのだ。プーチンに対して情報戦を仕掛けても「のれんに腕押し」「糠に釘」という感じだ。あるタイミングでプーチン氏からシグナルが出る。そのときは単なる観測気球ではなく、プーチン氏はロシア国家としての基本戦略・戦術を既に決定しているのだ。

 北方領土問題解決に関することでプーチン大統領の仮面を剥がすことは不可能だ。前にも述べたとおり、プーチン氏は仕事に絡むことでは仮面を剥がさないからだ。従って、われわれにできるのはプーチンに日本の国益にとって最適の仮面をつけさせることだ。そこから本気の話し合いを膝をつき合わせて始める。鈴木宗男氏が水先案内人として最適の役者だったので、森喜朗前総理はプーチン大統領に日本にとって役に立つ仮面をつけさせることに成功したのだ。

佐藤優氏

「プーチン大統領は柔道家だから親日的だ」と言う人がいる。私はこの見方は完全にずれていると思う。ソ連時代、柔道協会会長は常に内務次官がつとめていた。ソ連・ロシアの内務省、諜報・防諜機関関係者は柔道が職務の役に立つから使っているだけだ。

 プーチン氏は、柔道を知っているということが親日家という表象に使うことができるから、それを最大限利用しているに過ぎない。柔道を北方領土問題解決の手掛かりにしようというのは、私の見立てでは全くカテゴリー違いの議論だ。

日本の外務省が落ちた罠

 1997年11月のクラスノヤルスク非公式首脳会談も、橋本・エリツィンの個人的信頼関係を強化するという建前になっていたが、首脳外交の世界で純粋な個人的領域など存在しない。

 会話、食事、遊び、土産などのすべてにお互いの国益を賭したメッセージがある。当時、日露関係がこじれにこじれていたので、「非公式」という体裁でないと本格的な交渉はできないというプラグマティックな判断からクラスノヤルスク会談が行われたのだ。そして、「東京宣言に基づき、2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」という「クラスノヤルスク合意」が生まれた。