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2022/04/15

「だいたい、クマはオレと目合わせないよ」

 ところで赤石と話していて、気づいたことがある。普段は朴訥とした表情に隠れて気付かないが、ふとした拍子に目を見開くと——。

 見たことのない眼の色なのだ。

 黄金色、いや琥珀色と表現すべきか。出来すぎているようだが、1番近いのは、野生動物の瞳の色だ。

 この眼であれば、800メートル先のヒグマを撃てるだろうな、と思わされるものがある。赤石は言う。

「だいたい、クマはオレと目合わせないよ。山の中ですぐ脇をクマが通ったこともあるけど、そいつはこっちの顔も見ないで、スーッといった。絶対に気づいているはずなのに、知らんぷりするんだもん。350キロ近いデッカいヤツだったけど、あれは不思議だった。まぁ、いろんなクマがいるってことさ」

2021年6月、札幌市内に出没したヒグマは茂みに隠れていた ©時事通信社

 本当に「気づかないクマ」もいる。

「あるとき、仲間がクマを撃って逃がしちゃったんだ。それでオレが探しにいったら、ヤブの中を歩いてくるのが見えたのよ。『アララ』と思って、そのクマの後さ、ついていったんだ」(同前)

 14メートルの距離で、ずっと後をついていくが、なぜかクマが赤石の存在に気づく気配はない。赤石は赤石で「困ったな、どこ撃つかな」と悩んでいたという。

「オレはクマを撃つときは、頭か首しか撃たない。『クマの急所はアバラ3枚下』っていう人もいるけど、そんなところ撃ったら、100メートル離れてたって、あっという間にぶっ飛んで(反撃して)来るよ」

 だが後ろからでは、頭も首も狙いようがない。そこで——。

「耳の穴を狙ったのさ」

 放たれた銃弾は過(あやま)たず、右の耳から入って、左の目から出ていった。

「そんなところ普通は撃たねえよ、誰も(笑)。でも、オレは目玉撃てって言われたら撃てるから」

 もっとも、並外れた視力と射撃技術だけで獲れるほどクマは甘くない。熟練のハンターであっても、思わぬ反撃で命を落とすことはある。

#2に続く)

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