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2022/04/15

「撃たれてまだウネウネ動いているヤツをふんづかまえて、下に叩き落としてやったよ」

 体重80キロのメスだった。Tさんの撃った銃弾は腹部を貫通、横隔膜を破って背骨の横から出ていた。

「上にいるクマを下から撃ったが、致命傷にならず、駆け下りてきたクマの反撃を受けたんだろう」

 80キロはクマとしては小柄な部類だが、子連れとなれば、その危険性は若いオスの比ではない。

「なんでそのクマが現場にとどまり続けたかというと、コッコ(子熊)を待っていたからだよ。恐らくTさんと闘っている間にコッコが離れちゃったんだろう。そういうとき、あいつらは1週間でも2週間でも現場にとどまって、コッコが戻ってくるのを待っているんだ」

 だから親子グマは危ねぇんだ、と赤石は呟いた。

トレイルカメラに映った親子熊(提供:南知床・ヒグマ情報センター)

行動パターンを覚える

 赤石の「いつでも獲る」という言葉の裏には、その自負を支えるだけのディテールの積み重ねがある。

「猟期になったからって、いきなり山行ったって獲れないんだ。前の年の秋から山を歩いて、クマの好むどんぐりの植わり方とか、実の生り方とか、沢の1本ごとに全部頭に入れておかないとダメだ。オレはこの辺りにいるクマは一匹一匹、食べ方とか歩き方、行動パターンまで、全部覚えてる」

 山で足跡を見れば、「ああ、あのクマだな」と分かるから、その行動も予測できる。だから獲れる。

「鉄砲持ち始めた頃から、巻き狩りでしょっちゅう『勢子(せこ)』やらされたからな。自分の背丈より高いヤブの中入って、『クマ、ぼったくってこい(追い立ててこい)』いうんだから、半端でねぇよ(苦笑)。それでクマの性質覚えてしまったんだ」

 巻き狩りとは、「勢子」役が獲物を追い立て、その先で待ち伏せしている「待ち」役が仕留める複数人で行う狩猟法のことだ。鉄砲を持ち始めて間もない若手が勢子をやらされるが、その役割を全うするためには、足跡などのクマの痕跡を見極め、追跡する技術が求められる。

 例えば、クマの「止め足」を見破ることができるか。ハンターに追われたクマは、しばしば、自分の足跡を自ら踏んで消した後、足跡のつかない草むらや石の上などに跳び、身を潜めてハンターをやり過ごす。横から襲いかかることもある。

「クマは、必ず自分が歩いてきた道の方に頭さ向けているからね。それに気付かない鉄砲撃ちが、いきなり襲われて齧かじられるんだ」

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