昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2022/04/15

人の心を一瞬で読む

「止め足」といってもまっすぐ続いていた足跡がポツンと途切れるわけではない。クマは何度も周辺を踏んづけてグチャグチャの状態にしており、どちらの方向へ跳んだのか見定めるのは至難の業だという。

 一昨年のことだ。赤石は若手ハンターの育成のため、クマ撃ちの経験の浅いハンターと山に入った。首尾よくクマを見つけ、若手ハンターに撃たせたが仕留めきれずに逃げられてしまった。半矢の状態だ。

「待ってろ」と言って赤石だけが先行してクマの跡を追う。やがて前方に「止め足」の跡を見つけた。

 赤石は「何となくカンが働いて」道を外れて、脇のヤブへと入った。

写真はイメージです ©iStock.com

 すると、道の方へと頭を向けて、伏せの姿勢で後を追ってくる人間を待つクマの後ろ姿が目に入った。

 その人間(=赤石)が突然自分の後ろから現れたのを認めたクマは、一瞬呆気にとられた様子だったが、すぐに猛り狂ったという。

「怒っちゃって怒っちゃって、もうすごいんだ。眼玉なんかギラギラして青光りしてたからね。だから、すぐ前胸部を撃って、止めちゃった(トドメを刺した)。距離? 4、5メートルかなぁ」

 銃声を聞いて、やがて若手ハンターがやってきたが——。

「止め足のところを呑気に通ってくるんだもんなあ。『おめ、それ止め足だぞ。そこまっすぐ来たら、殺られてたぞ』って言ったけどね」

 クマは人の心を一瞬で読む、と赤石は続ける。

「相手が弱いと見たら、いきなりかかってくるよ。ひどいんだから。大人数で巻き狩りして、クマを追い込んでいくと、不思議と『この人のところだけには行かないでくれ』ってところに行くのさ。ハハ。一番殺気のない場所を本能的に察知するんだろうな」

 一方で、赤石は、昨今のヒグマの「ある変化」も感じているという。

「でも最近のクマはだいぶ気質も変わってきたよ。『止め足』切らねえのがたくさんいるから。足跡をそのままずーっと辿っていったら、そのへんの草むらに寝てるんだわ。下手すると踏んづけちまうで(笑)。檻で捕まえたクマだってオレがひょいと毛皮掴んでも、怒らねぇでキョトンとしてるのがいるからね」

 人間に対する警戒心がないのだろう、と赤石は指摘する。

「今は、山さ行っても、クマ全然いねぇから。みんな里に降りてきてる。昔は春グマ駆除があったし、里に降りてきたクマは巻き狩りで獲られるから、山奥にしかいなかった。でも今は駆除もないから、人間を怖いとも思ってない。車にも慣れっこになって、里を堂々と歩いているもの。これ、もっとヒドくなるぞ」

#3に続く)

その他の写真はこちらよりご覧ください。

この記事の写真(10枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文藝春秋をフォロー
z