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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

緒方が松永に対して抱いていた「断ち難い未練とでも呼ぶべき特別な感情」

完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件 #97

2022/03/29

genre : ニュース, 社会

終生、贖罪の生活を送らせるのが相当

 ここではまず原判決を支持したA裁判官による、補足意見の一部を紹介する。なお、以下はすべて、人物名について把握できるように、松永、緒方については本名を、その他の人物については、本連載で使用する仮名に置き換える。

〈原判決は、緒方(原文は被告人、以下同)は松永の強い支配及び影響を受けつつも自らの意思を全く失っていたとまでは認められないとしている。その上で、原判決は、緒方が松永から受けた虐待の経緯、取り分け緒方が二度にわたり逃亡を図った際における通電による激しい制裁をつぶさに認定し、家族も松永の口車に乗って緒方を責めるという特殊事情の下では、緒方については、適法行為の期待可能性は相当限度限定的なものであったと考えられるとし、緒方は長年にわたって松永の手足として汚れ役を強いられてきたものであると評価している。そして、原判決は、再犯の可能性が高くないこと、記憶に基づいて積極的に犯行を自白し事案解明に寄与したこと、真摯に反省しており、人間性を回復している様子がうかがわれること等を総合すると、松永とは情状に格段の差があり、罪刑の均衡・一般予防的見地等を考慮しても、極刑をもって臨むことにはなお躊躇せざるを得ないとして、終生、贖罪の生活を送らせるのが相当であるとした。緒方の罪責は誠に重大であり、本件は、緒方に対して死刑を選択することもあり得る事案ではあるが、原審が、審理を尽くし、精神医学の見地からの判断をも踏まえ重要な量刑事情をすべて考慮した上で下した上記判断を、私は尊重したいと思うのである〉

小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

利欲、打算、自己保身に満ちた犯行動機による残虐な犯行

 一方で、緒方の原判決の破棄を求めたB裁判官の反対意見は以下の通りである(抜粋)。

〈私は、本件事案取り分け冷酷・残虐極まりない一連のいわゆる孝(緒方の父)一家事件をみるとき、緒方には極刑をもって臨むほかないものと思料する。以下、理由を述べる。

 緒方の罪責が極めて重大であることは、多数意見が簡潔に摘示している事実のみをもってしても明白であるが、なお孝一家事件について、以下の点を特に指摘したい。

 孝一家事件は、緒方が内縁の夫である松永と共謀の上、緒方の実妹夫婦及びその娘をも実行行為に加担させ、子が親を、夫が妻を、姉が弟を、狭いマンション内において次々殺害するなどの陰惨極まる態様により、僅か6か月半の間に、緒方の両親、実妹夫婦及び同夫婦の子2人の合計6人もの多数人を殺害するなどした、戦慄すべき事案である〉

 ここでB裁判官は緒方の犯行動機や犯行の手段方法を挙げ、次のように断言する。

〈肉親に対する情愛の一片すらない利欲、打算、自己保身に満ちた犯行動機による残虐な犯行といわざるを得ず、酌量の余地はない〉

 さらには、緒方が6人の殺害のうち、幼い甥と姪について、直接実行行為に及んだことに触れる。

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