昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

緒方が松永に対して抱いていた「断ち難い未練とでも呼ぶべき特別な感情」

完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件 #97

2022/03/29

genre : ニュース, 社会

〈わけても悲惨であるのは、幼い甥と姪の死である。両名の殺害は、この2人が、いつか各殺害事件について他人に告げ口をするのではないか、その両親殺害の復讐をしてくるのではないかとのいわれなき疑心によるものであった。しかも、その殺害状況をみると、当時僅か5歳の甥については、同人を、先に死亡(殺害)した母親(智恵子さん=緒方の妹)に会えると思わせて台所の床に仰向けに寝かせて殺害し、姪についても、度々通電等の暴行、虐待を受けた上、両親を殺害され、さらには幼い弟の殺害に加担させられるなどし、もはや頼るべき者もない境遇にされた挙げ句、僅か10歳でその命を絶たれたのである。当時、緒方は既に2児の母親であった。しかも、甥と緒方の長男は同い年であった。緒方は、その甥にさえ手を掛けたのである。抵抗する力も言葉も持たないまま、これからの長い人生を閉ざされた幼い姉弟のことを思うと、冷酷、非常、無惨その他いかなる言葉をもってしても言い尽くせるものではない〉

 こうしたことから、B裁判官は述べる。

〈以上述べたことのほか、一審判決が詳細に認定し、原判決もまた基本的にそれを是認する本件各犯行の経緯、動機、犯行及び犯行後の状況等に鑑みれば、緒方の刑事責任はこの上なく重く、極刑以外の選択はあり得ないものと思料する〉

幼稚園勤務時代の緒方純子(1983年撮影)

松永から異常ともいうべき通電等の暴行、虐待を受けたことは事実

 また、原判決で〈――などの事情を考慮すると、緒方を極刑に処するほかないものとは断定し難いとする〉とされた事情についても、個別に検討している。

 まずは緒方が松永により他者との交流を制約された生活の中で、通電等の異常な暴行、虐待を受けたことにより、正常な判断能力が低下し、その指示に従わないことが難しい心理状態にあったなかで、松永に追従して一連の犯行に加担したことについて。

〈多数意見の趣旨とするところは、端的にいえば、緒方は、松永から暴行、虐待を受けたいわゆるDVの被害者であり、そのことが緒方の本件各犯行に極めて大きく影響しているので、その点を刑の量定に当たって重視すべきであるというものと解される。

 確かに、その回数、頻度、程度が緒方の供述するとおりであったかどうかはさておくとしても、緒方が松永から異常ともいうべき通電等の暴行、虐待を受けたことは事実と認められる。

 しかし、そうであるからといって、暴行、虐待の苦痛を免れるために第三者の生命を奪った者の刑事責任が軽減されるとするのは、いかにも不当であるし、そもそも緒方が、松永と共に、孝一家を全滅させるまでの徹底した殺害等に及んだのは、松永から通電等の激しい暴行、虐待を受けることを恐れてやむなくその指示に従ったからではなく、孝一家の者たちを殺害することが、何よりも緒方自身及び松永の刑事責任を免れるという両名に共通の利益となるものであったからである〉

z