昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

『ドライブ・マイ・カー』が米アカデミー賞で快進撃。濱口竜介を紐解く3つのキーワードと「新しい監督像」

2022/03/30

source : 提携メディア

genre : エンタメ, 映画

 

アメリカ最大の映画賞であるアカデミー賞の作品賞に、村上春樹原作、西島秀俊主演の『ドライブ・マイ・カー』がノミネートされた。これは日本映画の歴史では、まだ誰も成し遂げていなかった快挙だ。現地批評家の評価の高さを考えると、もしかしたら最優秀作品賞を受賞する可能性も……あるかもしれない(発表は日本時間3月28日)。

この映画を監督したのは、商業用長編映画としてはまだ2本目の濱口竜介。なぜここまで海外で評価されているのか。濱口監督作品のどんな点が愛されているのか。3つのキーワードと、原作者・村上春樹や海外からの評価といった観点から、“監督・濱口竜介”をビギナー向けにわかりやすく解説していく。

この記事の写真を見る(全5枚)

村上春樹も評価する『ドライブ・マイ・カー』のアレンジ

『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』に収められた同名の短編が原作だ。この映画を一般客に紛れて小田原の映画館で観たという村上春樹は、感想をこう述べている。

「どこまでが僕が書いたもので、どこまでが映画の付け加えなのか境目が全然わからなくて。それが面白かった」(※1)

【発売中】BRUTUS最新号[特集 村上春樹 下 「聴く。観る。集める。食べる。飲む。」編]。これまでに数多く映画化されている村上作品。村上さんが『ドライブ・マイ・カー』を観た感想は?#村上春樹特集 の詳細はこちら→ https://t.co/mPNv5hHFXD pic.twitter.com/QibdRJ6Oz3

— BRUTUS (@BRUTUS_mag) October 16, 2021

村上春樹がそう言うのも頷けるのは、映画『ドライブ・マイ・カー』が原作小説をかなりアレンジして再構成しているからだ。

原作では、舞台俳優である家福(かふく)が、数年前に妻を亡くしていることが最初に明かされる。そして家福は、生前に妻がほかの男性と体の関係にあったことを心のシコリとして残しており、その不倫相手のひとりであった高槻や、運転手のみさきと交流を重ねながら、亡き妻の深層に向き合っていく。

ごく簡単に説明すれば映画版には、原作の前日譚(妻が亡くなる前の様子)と後日譚が追加され、キャラクターそれぞれの背景に広がりがもたらされている。主人公の家福には西島秀俊、高槻には岡田将生、みさきには三浦透子がそれぞれ配役。同じ短編集に所収されている「シェラザード」「木野」といった小説のエッセンスも加えられながら、村上春樹の小説世界を逸脱しないままに深みが増している。