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ふんどし一丁で冷たい川に…今宮健太30歳、“6年ぶりの寒行”に挑んだ理由

文春野球コラム ペナントレース2022

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 2022年シーズン、ホークスの開幕スタメンはギリギリまで決まらず、熾烈なポジション争いが繰り広げられていた。

 どの選手が開幕スタメンに近いのかとホークスファンは連日盛り上がり、例年以上に開幕が待ち遠しかった。そして、いざ開幕戦。見事にその栄光を勝ち取った一人にショートの今宮健太選手がいた。

 今宮選手は今年31歳を迎える。明豊高校時代のプレー姿、そして帽子のツバをやけに曲げているスタイルがついこの間に感じる僕にとっては、「え?! もう31歳?」という印象だ。

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 ここ数年は怪我の影響もあり4年連続で規定打席に届かず、昨シーズンは打率.214と成績も振るわなかった。ホークスの絶対的ショートに君臨し続けたが、今シーズンは新助っ人外国人のガルビス選手、ルーキー野村勇選手がその立場を脅かした。

 もちろん、どの選手も今シーズンにかける思いは強い。だが、去年まで悔しい思いをし、加えて選手会長にも新たに就任した今宮選手からは、今シーズンに対する強い気持ちを感じた。

 僕がそう感じた出来事があった。

今宮選手の実家のお寺での寒行体験

 今宮選手は2012年から2016年まで、今宮選手のお兄さんの年男さん(40)が住職を務める大分の「一心寺」で、1月の寒い夜にふんどし一丁で川に入り願掛けなどをする“寒行”をしていた。

 怪我の影響もあり、2017年以降は行っていなかったのだが、今年1月、6年ぶりに今宮選手は寒行を行ったのだ。

寒行する今宮選手 ©ノボせもんなべ

 僕自身も、今年の2月に一心寺で寒行をするロケが決まり、今宮選手にインタビューする機会があった。「ご実家のお寺で寒行させてもらいますね!」と報告したら、それまで和やかに話していた今宮選手の表情がキュッと引き締まった。

「絶対良いと思いますよ! 変われますよ! 一度はやった方が良いと思いますよ!」

 そうまっすぐな目で言われた。今宮選手との関係性的に「来ないで下さい!」とイジられるかなと思っていた僕も、気が引き締まり、寒行の偉大さを感じた。

 そしていざ、一心寺へ。今宮選手と同様に、ふんどし一丁で川に浸かったのだが、2月の川は尋常じゃない冷たさ。プライベートだったら絶対ギブアップしていたが、カメラと大人がいっぱい見ていたのでやるしかなかった。足から徐々に水位の深い所へ進んでいくと、冷たさを通り越して体が痺れていく。「この現象は本当に大丈夫ですか?」とお兄さんに聞くと、お兄さんは平然と「もう少ししたら麻痺して冷たさ感じなくなるので大丈夫ですよ」。

 なるほど。……いや、それって大丈夫なんですか?!

 それから数秒後本当に麻痺して冷たさを感じなくなった。人間の体の作りに感心した瞬間だった。そこから胸まで冷水に浸かったまま手を合わせ、何度もお経を唱える。あとは精神力あるのみ。全ての行程が終わり、川から上がると、川に浸かっていた部分は真っ赤になっていた。周りにいたスタッフの方々はかなり心配してくれて、いつも以上に優しくしてくれた。見ているだけで過酷な寒行。しかし、寒行を終えた僕自身は今までに味わった事のない気持ちよさを感じていた。まず、体がポカポカと暖かく感じ、サウナでいうところ“整う”の気持ちよさを遥かに超えていた。超整い。そして、厳しい寒行をやり終えたという事で達成感がすごく清々しい気持ちで、寒行をやる前の自分から一皮も二皮も剥けた気分だった。

寒行中の筆者 ©ノボせもんなべ

 今宮選手の言う「変われますよ」という言葉を、身をもって感じた。

 僕は今年芸歴14年目(グラシアル選手と同じ歳の今年37歳)。何か結果が出せると思うのでそちらもどうぞ乞うご期待。

今宮選手の寒行に対する想い

 と、僕の話はこの辺にしておいて、そんなロケを一心寺でさせて頂いたこともあり、お兄さんとお近づきになれたので、今宮選手の寒行に対する想いを改めて連絡を取って聞いた。

 最初に今宮選手が寒行を行ったのが2012年の1月。「そろそろ俺もやらんといかんな」と急にお兄さんに言ってきたそうだ。

 ただ、いざ寒行する段になって今宮選手はかなりビビっていたようで、「寒い! 寒い!」と連呼していたと、お兄さんは悪戯に笑いながら話してくれた。

写真2009年の今宮兄弟。左次男の祥男さん、中三男健太さん、右長男年男さん

 今宮選手はこの時、プロ2年目のシーズンを終え18試合しか出ていなかったが、寒行を行った2012年シーズンからはショートのレギュラーに定着していった。

 2014年には柳田悠岐選手、牧原大成選手も一緒に寒行を行い、その年に牧原大選手はプロ初安打を放ち、柳田選手にいたっては自身初の全試合出場を果たし、なおかつ初の3割を超える打率を叩き出した。

 今宮選手も2016年には史上最年少となる200犠打を達成した。

 これはもう寒行になにかあるとしか思えない。

 しかしそれ以降は、肘の手術をしたこともあり急激に体を冷やす寒行は良くない可能性があるとお兄さんが止め、一旦やめることとなっていた。

 そこから今年、6年ぶりの寒行だったわけだが、去年の年末に今宮選手が後援会の皆さんとオンラインで繋ぎ感謝の気持ちを述べ、質問に答える時間があった。

 その時に出た質問が「寒行はもうしないんですか?」だった

 すると今宮選手は当たり前のように「2022年は寒行しますよ!」そこでお兄さんも今年は寒行することを初めて知って驚いたらしい。(ちなみに今宮選手の奥さんは「寒行やらんといかんやろ」とずっと言っていたそうだ)

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