昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

〈カムカム最終回〉放送中にある“事件”が…るい・錠一郎の戸籍謄本が物語る、2人が出会う前の秘話

#1

2022/04/08

「文藝春秋」2022年5月号より、政治学者の遠藤正敬氏による「朝ドラ『カムカム家』の戸籍」を全文転載します。(全2回の1回目/後編に続く)

◆ ◆ ◆

「カムカム」放送中のある“事件”

 平日の午前8時台といえば? と問われて、NHK朝の「連続テレビ小説」(以下、「朝ドラ」)を連想する人は少なくないであろう。さかのぼれば「おはなはん」(1966)や「おしん」(1983)といった国民的人気作品を生み出した時間帯であり、近年も「あまちゃん」(2013)や「あさが来た」(2015)などのヒットが記憶に新しい。

 今期の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」(以下「カムカム」)は異色の話題作といえる。安子・るい・ひなたという3代のヒロインが、大正から令和に至る激動の100年を生きる物語であり、その展開において家制度、戦争、民主化、高度経済成長……と日本の近現代史を貫く数々のテーマが盛り込まれている。そしてタイトルにあるように、3代のヒロインを結ぶ縦糸となるのが、ラジオ創成期から続くラジオ英語講座である。

 筆者は戸籍制度をめぐる「日本人」のあり方を歴史的に研究している物好きであるが、テレビドラマなどは何年もまともに観ていない。

 そんな筆者がなぜ「カムカム」に興味を覚えたかというと、放送中のある“事件”を知ったからである。

 るいはトランペッターの大月錠一郎と結ばれるが、第56話(2022年1月20日放送)では錠一郎の、さらに第60話(同1月26日放送)では夫婦の戸籍謄本が画面に登場したというのである。

るいの夫・錠一郎を演じたオダギリジョー

 これの何が“事件”なのか?

 そのゆえんは、テレビや映画で戸籍が開示される場面というのはそうあるものではないからである。戸籍は「日本人」の身分証明となる公文書で、結婚、養子縁組、離婚、帰化などが記録されており、いわばプライバシーの塊だ。とりわけ人権意識の高まった昨今にあって、たとえフィクションにせよ、戸籍をみだりに衆目に晒(さら)すことは慎むべきであるという倫理観が製作者にもはたらいて然(しか)るべきである。

 戸籍は1976年まで公開制であったため、結婚相手の履歴など、身許調査の格好の手段として利用された。そんな“取扱い注意”の戸籍がなぜ朝ドラに登場したのか?

 かくして“戸籍の虫”の触角をくすぐられた筆者は重い腰を上げ、NHKオンデマンドで「カムカム」を安子・るい編を中心に一気見した。以下、戸籍という視点を通じてこの朝ドラから浮かび上がってくるものを綴ってみる。