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〈カムカム最終回〉「るいもいずれ『大月さん』になるんだよ」錠一郎の真意、るいの戸籍に隠された安子の“消息”とは

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2022/04/08

「文藝春秋」2022年5月号より、政治学者の遠藤正敬氏による「朝ドラ『カムカム家』の戸籍」を全文転載します。(全2回の2回目/前編から続く)

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「入籍」してこその「家族」?

 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第60話(2022年1月26日放送)の冒頭では、入籍後の「夫婦」の戸籍謄本をるいと錠一郎がにこやかに眺めながら歩く場面がある。ここで強風に戸籍が吹き飛ばされたりしたらと心配になるが、よほど嬉しかったのであろう。

 画面に映し出された2人の戸籍は、「大月錠一郎」の氏名が筆頭にある。それまでは父母もなく錠一郎ただ1人しか記載されていなかった戸籍であるが、ナレーション曰く「るいは『大月るい』となり、錠一郎の戸籍に初めて家族が加わりました」。戸籍という紙の上に一緒に名前が載ってこその「家族」であるというのは守旧的思考といわざるを得ない。育ての親となった定一は錠一郎にとってかけがえのない「家族」であったはずである。そこは、孤児として育ったという錠一郎の不遇を強調したい意図からとみるべきか。

るい役の深津絵里

 錠一郎は周囲に戦災孤児であることを知られていたり、親の名がない戸籍をるいに見せたりと、孤児という生い立ちを隠し立てすることはなかった。

 そんな錠一郎でも、結婚については夫唱婦随を是としている場面がある。錠一郎がるいにプロポーズする際、それまで「サッチモちゃん」(「ニッチモサッチモ」の方ではなく、ルイ・アームストロングの愛称「サッチモ」から)と呼んでいたのを「るい」に改め、るいにも自分をもう「大月さん」と呼ぶのはやめてと頼むが、そこで出た言葉が「だって、るいもいずれ『大月さん』になるんだよ」。出世や名誉などに無頓着で浮世離れした感のある錠一郎でも、結婚したら妻が夫の姓に変わるのが当たり前という価値観は持ち合わせているわけである。

 視聴者は、安子に捨てられたるいの姓がどうなったのか? という疑問を抱いたかもしれない。安子がロバートと正式に婚姻していたとしても、外国人は戸籍がないので安子の姓は変わらない。

 安子が日本人と再婚したならば高確率で夫の姓に変えるであろうが、そもそも母が再婚しても、子の姓は変わらない。再婚相手と養子縁組しない限り、るいの姓は「雉真」のままである。