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意識が朦朧とする中で「まだまだやりたいことがあるのにな」加山雄三85歳が病室で人生を辿り直して思い出したこと

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大借金、母の死、小脳出血……。「文藝春秋」2022年4月号より、4月11日に85歳の誕生日を迎えた俳優・歌手の加山雄三さんの「若大将85歳の『幸せだなぁ』」を全文転載します。(全2回の1回目/後編に続く)

加山雄三さん

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「幸せだなぁ」というのは本心

 芸能生活62年。うれしいことも悲しいことも、そりゃあ、いっぱいありました。

 昨年、長年の活動が評価されて文化功労者に選ばれたのは、うれしかったな。天皇皇后両陛下にもお目にかかりました。皇居に拝謁に伺ったときに、出席者が1列に並んで両陛下が一人一人と順番に挨拶されていくでしょう。僕は一番端にいたもんだから、何を言おうか悩んじゃってね。「どうしようか……」と、あれこれ考えているうちに自分の番になって、つい両陛下に「えー、これからも頑張って歌います」なんて、つまらないこと言った。

 後悔していますよ。だって本当は「幸せだなぁ」って言いたかったんだから。そう、元々は「君といつまでも」の間奏に出てくるセリフだけど、僕のキャッチフレーズのようなもんです。さすがに両陛下の前で言ったら、どんな顔されるかと思うと恐くてね。我慢しました。

 でも、「幸せだなぁ」というのは俺の本心なんです。今年で85歳だけど、この歳になっても、いつも最高、生きててよかったなあ、と思うことが本当に多い。もんじゃ焼き食べてるときも、ステーキ食べてるときも、そう思いますよ。幸せだなぁって。もっとも、たくさんのお客さんの前で歌うことができれば、それが一番幸せな瞬間ですけどね。

 今の世の中を見ていると、「幸せ」なんて口にしない人が多いでしょう。コロナで沈み気味になるのは分かる。自分の人生が不遇なのを嘆いて、痛ましい事件を起こす人もいるよね。

 ただ、本当は幸せなはずなのに、暗い顔して愚痴ばっかりこぼしている人も多いと思うんですよ。何かにつけて、文句を言わないといけないような雰囲気がある。それは違うよね。僕に言わせれば、「本当は幸せな癖に」って思うよ。幸せなら「幸せだ!」って素直に言えばいいのにって。

 最近のテレビドラマを見ても、登場人物が、みんな揃って愚痴ばかり言うでしょう。ワイドショーでも他人の不幸をあげつらって、それを喜んでいるんだから情けないよ。本当に情けなくて、画面越しに思わず文句を言いたくなる。カミさんに「しょうがないでしょ」って止められるんだけどさ(笑)。