昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

無期懲役判決を受けた緒方純子 逮捕から20年が過ぎたが「出られるとは思っていないみたいです」

完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件 #100

2022/04/12

genre : ニュース, 社会

 起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第100回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

書面作成作業の負担が重く、出血性胃潰瘍になった吉村弁護士

 松永太と緒方純子の控訴審において、一審で死刑判決だった緒方が、無期懲役判決に転じた際の当事者である緒方弁護団の、古賀美穂弁護士と吉村敏幸弁護士による回顧は続く。

 前回、緒方弁護団が2007年1月24日に始まる、控訴審第1回公判の直前である07年1月中旬までに、補充趣意書を提出したことを記したが、この書面の作成作業がいかに負担となったかを表すエピソードがある。吉村氏が明かす。

「書面を書くじゃないですか、書きづらいんですよ。事実がもう、沢山あるんです。何十個も事実がある。それを整理して書かなきゃいけない。しかも長々しくは書けない。だけど要領よく分かりやすくっていうのがいくつもあって、もうなかなか書けなくて、ビールとかウイスキーをたくさん飲んじゃったんですね。その結果、いつの間にか頭というか、胃をやられちゃったんです……」

©️iStock.com

 体調を崩した吉村氏が、初公判の直前に入院してしまうのだ。

「(初公判の)2日か3日前に出血性胃潰瘍になってしまったんです」

「それで第1回公判は病院から来たんですよ。もう、勘弁してほしいですよね、ははは」

 横で古賀氏が笑う。吉村氏も苦笑して言う。

「入院したけど、初公判を古賀先生1人だけにするわけにはいかないじゃないですか。なんとしても行かなきゃって、病院から裁判所に直行したんです」

緒方弁護団は控訴趣意書の前文で事実誤認を主張

 とまれ、そんな予期せぬ出来事はあったが、開かれた控訴審初公判において、緒方弁護団は控訴趣意書の前文で次のように主張した。

〈……被告人緒方の考えを弁護人は検討し、捜査段階、原審における被告人緒方の供述内容を精査した結果、原判決が、被告人緒方について「松永の意図に完全に同調して、松永の指示を受けつつも、それなりに主体的で積極的な意思で、つまり、自己の犯罪を遂行する意思で、犯行に加担したものである。」と結論付けた点、そして、その結論に至る認定事実について、事実誤認として争うことにしました。(中略)

 

 弁護人が着目したのは、概ね以下の点です。

 

1 たくさんの人が被告人緒方同様、被告人松永に取り込まれていったこと

 

2 異常な精神・心理状況になければ犯しえない事件であり、精神・心理についての専門家による分析なくして、本件の真相は明らかにしえないこと

 

3 被告人緒方も被告人松永の暴力・虐待の被害者としての面を有すること

 

4 被告人緒方と被告人松永が対等な立場で共謀をしたり、行為を共同したりすることはありえないこと

 

 そうした点から、本件各事実について、被告人緒方が実際に関与した形態を精査し、主に被告人松永との共同正犯とされている点について、その成立を争うことにしました〉