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「ソニーは日本最強のサブスク銘柄」東芝とソニー、くっきりと分かれた“明暗”の理由

2022/04/20

source : 文藝春秋 2022年5月特別号

genre : ビジネス, 企業

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キーワードは「国家」と「院政」。ジャーナリストの大西康之氏による「ソニーと東芝『勝負の分かれ目』」を一部公開します。(「文藝春秋」2022年5月号より)

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“絶海の孤島”だったエンタテインメント部門

 2005年から7年間ソニーCEOを務めたハワード・ストリンガー(80)は、いまロンドン郊外で悠々自適の生活を送りながら、業績好調を続ける古巣を見守っている。

「今やソニーミュージックは世界の三大音楽会社の一つとなり、ソニーピクチャーズは、外国企業が持っている映画スタジオでは唯一成功している。最もビッグな歌手アデルはソニーの所属であり、最も人気がある映画『スパイダーマン』シリーズもソニーのものです。

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 今日のソニーの成功は、エレクトロニクス部門とエンタテインメント部門をうまく組織化したことによるところが大きい。CEOになった時、映画や音楽のエンタテインメント部門はいわば“絶海の孤島”で、東京のエレクトロニクス部門と連動しておらず、両者をつなぐことが私の使命でした。あの頃からエンタテインメント部門の資産は極めて重要で、ソニーの将来を支えることはわかっていました。ソニーは単なるエレクトロニクスの企業ではなく、各部門の総和によって最高の力が発揮できる。そういう会社であることを理解し、実現しようとみんなが一丸となって努力していたことがようやく実りつつあるのだと思います」

“中興の祖”であるハワード・ストリンガー氏

 2003年に日本株の暴落のきっかけとなる「ソニーショック」を引き起こしたソニーグループは、テレビ事業の黒字化、ゲーム事業の成功などにより、2021年度第3四半期(10-12月期)の連結売上高、連結営業利益がいずれも過去最高を更新した。

 一方、かつてのライバル東芝は3月24日に開いた臨時株主総会で、半導体を扱う「デバイス」事業を分離・独立させ、発電機器などの「インフラサービス」事業は本体に残す2分割の提案をしたものの株主が否決。2015年に粉飾決算が発覚して以来、何度も生まれ変わるチャンスがあったにもかかわらず、ことごとく機会を逸し、経営の迷走と企業価値の毀損を続けている。

 かつてのライバル同士も、今はソニーの売上9兆円に対して東芝は3兆円と3分の1。株式時価総額も、東芝はソニーグループの約8分の1に落ち込む。

 戦後長らく総合電機の一角として日本のエレクトロニクス産業を支えてきたソニーと東芝。これほどまでに明暗が分かれたのはなぜなのか。

 CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社し、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)で家庭用ゲーム機「プレイステーション」の事業を担当してきた「傍流」の平井一夫がストリンガーの後任として社長になった2012年、ソニーはまさに「どん底」の状態にあった。