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幼い頃から、自分より手のかかる兄がいるということを理解していた佐田さんは、寂しくても、「寂しい」とか「もっとかまってほしい」などを、「言ってはいけない」と思っていたため、母親や祖母に伝えたことは一度もなかった。

「その代わり、今思うと中学生の頃、不登校という形で、『寂しい』『もっとかまってほしい』という気持ちを出していました。しばらく学校へ行かず、家で母にかまってもらえると落ち着き、また学校に通うということを繰り返していました」

高校生になると、佐田さんに初めての彼氏ができた。しかし佐田さんは、彼氏に兄のことを話すべきか悩み、苦しんだ。

「考えれば考えるほど、どうして私が兄のことで悩まなければならないのだろう? こんなに悩んでいることを両親は分かってくれるのだろうか? そもそもどうして私を産んだのだろう? と、どんどん“悩み”は“傷つき”に変わっていきました」

悩んだ末に、佐田さんは彼氏に兄のことを話したが、彼氏は障害者そのものや、障害者のいる家庭の生活にピンとこなかったようだ。覚悟していたほどネガティブな反応はなく、佐田さんは胸をなでおろす。結局その彼氏は、兄と会うことなく別れた。

そして佐田さんは、かねてから目指していた関東の大学に合格。初めての一人暮らしを開始した。

静かで自由な大学生活

生まれて初めて実家を出て一人暮らしを始めた佐田さんは、まず、家の中が静かなことにとても驚いた。生まれたときからずっと兄の大声や奇声を聞き続け、兄のために幼児番組が大音量で再生され続けていた環境で育った佐田さんは、「日常生活ってこんなにも(音量として)静かに過ごせるんだ」と感嘆したという。

さらに、時間を気にせず外出できることも新鮮だった。実家では、夕方には養護学校から兄が帰ってくるため、佐田さんは、家族での夜の外食や外出の経験がほとんどない。兄の都合に縛られることなくスケジュールを組めることに、純粋に感動した。

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