「兄に対して私が恥を感じていること、その思いを両親にも誰にも訴えることをしなかったのは、周囲の空気を読んでいたからです。私にとって、兄に対して文句を言うことは、解決しようのない問題に駄々をこねるようなものであり、両親が大事にするものへの貶めでもあります。つまり、兄に対して私が恥を感じていること、その思いを両親に訴え出ることは、家庭の中で私の立場を危うくすることでした」
佐田さんは、家族で唯一兄に対して「羞恥心」を感じ、本来ならこの世で最も安らげる場所、ありのままの自分を受け入れてもらえるはずの場所・家庭の中で孤立していたのだ。
「両親も祖父母も、みんな兄を大事にしていたので、その兄を私が心の中で憎んでいることは、あってはならないことだと思っていましたし、悟られないようにしていました。でも当時、もしも誰かに打ち明けることができたとしたら、兄の様子や状況を第三者にすべて理解してもらうことはとても難しいので、同じ時間を共にして、兄と私の両方を知っている大人・両親に話を聞いてもらいたかったです。でも、残念ながら、両親が私から兄への不満を引き出してくれたことは、一度もありませんでした」
老いた親と兄を私が支えなければならなくなるのか
成人してから佐田さんは、きょうだい児の会に参加したり、SNSなどで同じきょうだい児たちと知り合ったりすることができ、誰にも打ち明けられなかった胸の内を少しずつ明かすことができるようになる。
分かり合える仲間の存在や、幼い頃のつらい記憶と向き合うことが功を奏したのか、佐田さんのトラウマやうつ病は快方に向かっているようだ。
「両親は今のところ健康に過ごしていますが、父母どちらかが大きく体調を崩した時、私が親と兄の両方を支えなければならなくなることをとても不安に思います。両親は、将来的には私に面倒をかけないために、兄を『グループホームへ入れるつもり』と言っていますが、入所待ちの人が多いため、見通しは不透明です」