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「人を、想う力。街を、想う力。」三菱地所社長が掲げる3つ目の力とは?木を活用する社会の実現に向けた新事業に迫る

文藝春秋創刊100周年記念 トップインタビューVol.6

PR提供: 三菱地所株式会社

三菱地所が次に手がけるのは、木を活用する社会を実現すること。MEC IndustryやTOKYO TORCHなど、若手の自由な発想とコラボレーションが生む新戦略とは。編集長・新谷学が、吉田淳一社長に徹底取材した。

吉田淳一氏
三菱地所株式会社 執行役社長

新谷 学
聞き手●『文藝春秋』編集長

日本の玄関口として
世界を魅了する大丸有

新谷 噂に聞いていたオフィスを、先ほど見学して来ました。御社自ら建てた大手町パークビルの3階から6階ですが、エレベーターを使わずに内部の階段で移動でき、各フロアは仕切りのないオープンスペースで、個人の席が決まっていないフリーアドレス。伝統ある大企業としては、画期的な仕事環境ですね。

吉田 コンセプトは、「ボーダーレス×ソーシャライジング」です。物理的な壁や心理的な壁を取り払い、社員同士のいろいろなコラボレーションから新しい発想が生まれ、仕事の合間にはリラックスもできる空間を目指しました。

 テナントさんに最高のオフィスを提供すると宣言している以上、我々が自信をもてなければいけませんから。

Junichi Yoshida
1958年生まれ。東京大学法学部卒業後、’82年に三菱地所入社。2007年人事企画部長、’14年常務執行役員、 ’16年取締役 兼 執行役常務などを経て、’17年から現職。
Junichi Yoshida
1958年生まれ。東京大学法学部卒業後、’82年に三菱地所入社。2007年人事企画部長、’14年常務執行役員、 ’16年取締役 兼 執行役常務などを経て、’17年から現職。

新谷 見学者も多いとか。

吉田 移転してきた2018年だけで、約1万人いらっしゃいました。

新谷 私を含め旧来型の社屋で過ごしてきた世代からは、出てこない発想だなというのが第一印象です。

吉田 総務の中堅と若手で作ったチームが、他部署の中堅や若手と連携したり、外部のノウハウを勉強しに行ったりした結果です。私は「自由に作ってくれ」と言って、一切口を出しませんでした。

新谷 任せると決断できたのは、なぜでしょうか。

吉田 このオフィスを恒久的に使うとすれば、メインとなる世代は我々ではありません。ですから現在の中堅と若手が、将来「こんな空間で働けてよかった」と振り返れるようにすればいいと言ったんです。

新谷 社内の雰囲気は変わりましたか。

吉田 ガラッと変わりました。上下の階へ移動するとき、普通は共用部分に出てからエレベーターを使いますよね。すると用事のない部署へは行かず、交流が生まれません。ところが内部階段とオープンスペースのおかげで、仕事で接触する必要のない人間とたまたま顔を合わせる機会が増え、偶発的に会話が生まれます。それは「こんな案件を一緒に考えてみないか」でもいいし、「今夜飲みに行こう」でもかまいません。

新谷 弊社の場合、月刊『文藝春秋』編集部、雑誌を書店に売る営業部、そして宣伝部は、それぞれ別の階にあります。本来なら、垣根を低くして横の連携を取ることが大事なのに、フロアごとに縦割りの発想になりがちです。

吉田 そういった意味で言えば、新規事業の提案件数が増えた理由に、オフィス環境の変化があると感じます。「部下は上司の見える場所にいるべし」みたいな変な習慣もなくなって(笑)、自立性が生まれましたね。

新谷 御社の事業でいま注目を集めているのが、東京駅日本橋口の真ん前に位置する常盤橋地区で再開発を進めている「TOKYO TORCH」です。

吉田 「東京に来たら必ず立ち寄りたい」「いつも新しい出会いや発見がある」と感じていただける街作りを目指しています。ツインタワーのうち38階建ての「常盤橋タワー」は、昨年9月にグランドオープンしました。

新谷 もう一棟ある「Torch Tower」は、高さ390メートルの63階建て。2027年度に完成すれば、日本一の超高層ビルですね。

東京駅日本橋口前の常盤橋街区が、日本を明るく照らす希望の灯りのような存在でありたいという想いから名付けられた「TOKYO TORCH」。目玉となる2棟のうち、常盤橋タワーは2021年9月にグランドオープンし、Torch Towerは高さ390mの日本一の超高層ビルとして2027年度に竣工予定。
東京駅日本橋口前の常盤橋街区が、日本を明るく照らす希望の灯りのような存在でありたいという想いから名付けられた「TOKYO TORCH」。目玉となる2棟のうち、常盤橋タワーは2021年9月にグランドオープンし、Torch Towerは高さ390mの日本一の超高層ビルとして2027年度に竣工予定。

吉田 屋上階は展望施設で、その下には超高級ホテルや50戸ほどの高級賃貸住宅を整備します。中層階はオフィスで、下層階には約2千席の大規模ホールや、温浴施設なども入る予定です。地上から8階まで約2キロの空中散歩道が続き、終点には緑あふれる屋上庭園が作られます。一番の特徴は、7千平方メートルほどもある大規模広場です。

新谷 三菱地所の事業は、1890(明治23)年に明治政府から丸の内にあった陸軍省用地の払い下げを受けたことから始まりました。

 いまでは世界有数のビジネスセンターとなった「大丸有(大手町・丸の内・有楽町)」エリア。約30棟ものビルを保有し、再構築が進んでいますが、今後はどのように発展させていくおつもりですか。

吉田 10年後50年後、さらに100年後まで見据えています。新しく刺激的な都会の中心でありながら、オアシスのように落ち着くエリアにしていきたいと考えています。海外から日本を訪れる方たちにとっても、ここへ来れば日本全国の魅力や新しい情報がわかるという場所にしたいですね。

新谷 東京都の玄関口を、日本の玄関口に。

吉田 はい。すでに有楽町エリアでは、エンタメとアートを中心に、歩いて楽しい空間作りに取り組んでいます。クスノキ並木が整備された丸の内の仲通りには、箱根の彫刻の森美術館からお借りした作品を展示しています。

新谷 2010年に開館した、赤煉瓦の三菱一号館美術館もありますね。

吉田 1894(明治27)年に、イギリス人建築家ジョサイア・コンドルの設計で三菱が建てた初の洋風事務所建築を、復元したものです。
大丸有のエリア全体を、アートがある街ではなく、アートな街にしたいんです。

木を活用する新事業 
地方創生にも貢献

Manabu Shintani
1964年生まれ。早稲田大学卒業後、文藝春秋に入社。『Number』他を経て2012年『週刊文春』編集長。 ’21年7月より現職。
Manabu Shintani
1964年生まれ。早稲田大学卒業後、文藝春秋に入社。『Number』他を経て2012年『週刊文春』編集長。 ’21年7月より現職。

新谷 SDGsにも、かなり力を入れている印象です。

吉田 不動産開発は環境破壊だと捉える見方がありますから、我々にとって特に大切です。三菱地所グループのブランドスローガンは、「人を、想う力。街を、想う力。」ですが、最近は「地球を、想う力。」をプラスしています。不動産は地球の有限な資産で、環境に配慮しない街作りはありえません。素晴らしい恩恵を受けている地球に貢献をして、初めて会社が成り立つわけです。

 ひとつの実践例として、丸の内エリアで所有するビルの電力を、今年度中にすべて再生可能エネルギー由来とする予定です。そのほかのエリアについても、再エネ電力の導入を進めています。

新谷 木を活用する社会の実現を目的に、竹中工務店など6社との出資で設立された新会社「MEC Industry」も、その延長でしょうか。

吉田 日本は、森林が国土面積の約70%を占める森林大国ですが、ほとんど活用されていません。ある程度の樹齢に達した木はCO2を吸わなくなりますし、根も弱くなって土砂災害の原因になります。

 この新会社では、生産、加工、販売まですべてを手がけることで、建材を安く迅速に提供します。合わせて、同業者や建築業界と連携しながら、山林の荒廃問題にも取り組みます。

新谷 適切な管理は、森林の養生に繋がります。本社は鹿児島県の霧島市なんですね。

吉田 本社から車で一時間ほどの姶良郡湧水町に、約9万平方メートルの広さの工場を建てました。雇用を増やそうという地方創生の目的もあって、現在100人ほどの従業員のうち半数近くは地元の若者です。

鹿児島県姶良郡湧水町に約9万㎡の広さを誇るMEC Industryの工場。あらかじめ床・天井・壁を組み立て、内装工事まで終えた直方体のユニットや、鉄筋と木を一体にした建築用新建材などを生産。川上から川下までの統合型ビジネスモデルを構築する。「未来と共に興す」というスローガンを掲げ、本年5月より本格稼働。
鹿児島県姶良郡湧水町に約9万㎡の広さを誇るMEC Industryの工場。あらかじめ床・天井・壁を組み立て、内装工事まで終えた直方体のユニットや、鉄筋と木を一体にした建築用新建材などを生産。川上から川下までの統合型ビジネスモデルを構築する。「未来と共に興す」というスローガンを掲げ、本年5月より本格稼働。

新谷 鉄骨や鉄筋コンクリートに代わって、今後は木材を活用していくわけですか。

吉田 木材だけでは耐火性能や耐震構造の問題があるので、現在のところはハイブリッドです。昨年10月にオープンした「ザ  ロイヤルパーク  キャンバス  札幌大通公園」は、日本初の高層ハイブリッド木造ホテルです。11階建ての上3層が、純木造なんですよ。構造材に使用した木材の量は国内最大規模で、8割以上はトドマツやカラマツなど北海道産を使いました。

新谷 木には、独特のぬくもりと優しさがありますよね。しかし従来の事業内容に照らすと、木材へのシフトは大きなチャレンジでは?

吉田 木造は加工が容易で、工期も短縮できます。地産地消なら、輸送コストも安く済みます。注文住宅を受注する子会社で知見を得ていました。「CLT(Cross Laminated Timber)」という新規事業を若い社員が提案してくれたことがきっかけです。

新谷 木材の繊維の向きを直交するように重ねて、貼り合わせるパネル工法ですね。沖縄県宮古島市の「みやこ下地島空港ターミナル」でも、九州産の杉を使った屋根の構造材に使われているとか。

吉田 CLTによって、製造時に排出されるCO2や建物の重量が減らせます。断熱性能が高くて省エネになるので、コンクリートよりも環境への負荷が小さくて済みます。

 若い人はすべて自分たちでやりたがりますから(笑)、そこだけは止めた上で、鹿児島の木材の専門家たちと一緒にMEC Industryを設立したわけです。

ラグビーから学ぶ
社員と組織の結びつき

新谷 お話を伺っていると、吉田社長は人や組織を動かすことがお上手な印象です。人事を長く担当された経験が、経営に活きていますか。

吉田 私は若いうちから、仕事のやり方を逐一教えられたことがなくて、リスクマネジメントも含めて自分で考えながらやらせてもらいました。「責任は取るけれども、しっかり考えてやってね」と、誘導していくことが大事です。中間管理職を含めて口を出さないようにして、困ったときにはサポートする距離を保つことを心がけています。

新谷 人事異動や採用では、どういう点を見ていますか。

吉田 現場は経験値の高い人間を欲しがりますが、変化が激しい世の中では、過去の成功体験はあまり役に立ちません。間違ったことはしない代わり面白いこともやらないという堅いイメージの会社ですから、敷かれたレールを踏み外す勇気をもっている人をどう見分けるか、ですね。

新谷 近年は、ラグビーの支援に力を入れていますね。日本で開かれたラグビーワールドカップ2019をはじめ、ラグビー日本代表チームのオフィシャルスポンサーにもなっています。

吉田 その年は全国の商業施設でパブリックビューイングを開催したり、丸ビルにラグビー神社を設置するなど大会の盛り上げに貢献しました。最近では、ファンのアイデアをもとにラグビーチームと一緒にチャリティマッチを開催するなど、ラグビーを通じた共創に取り組んでいます。ラグビーって、日本人向きのスポーツじゃないですか。スクラムを組んだり、パスを繋いだり。

新谷 経営に通じる部分もありそうです。

吉田 成果を挙げるまでの困難の中で、一人だけ目立とうとしてもダメ。チーム全員のために自分の役割を果たす。よく似ていると思います。

 痛いときやしんどいとき、グッと我慢してプレーする姿にも共感しますよ(笑)。


Text: Kenichiro Ishii
Photograph: Miki Fukano