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2022/05/09

ヒグマと「自分の腕で勝負したい」

 苦労の甲斐あって、鹿撃ちの腕はメキメキと上達した。そうなると、北海道のハンターにとって、憧れと畏怖の対象であるヒグマと「自分の腕で勝負したい」という思いが沸き上がってきた。そのチャンスは猟を始めて3年目の春にやってくる。

「山の中で偶然出くわしたのさ。オレが沢を渡っているときに、上からクマ降りてくるのが見えたんだ」

 そのクマは胸のあたりの毛が白く渦巻き、見事な「月の輪」模様になっていた。クマも岡田に気付いた。

「でも、なぜかオレは泡食わなかったんだよな。じっくりスローモーションで銃を構えたんだけど、その間、クマは動かんかったよ」

 いざ引き金を引こうとすると、「もし外したら……」という考えも過った。ハンターが命を落とすのは、一発で仕留めきれずに「半矢」になったクマに反撃を食らうケースがほとんどだったからだ。雑念が過ぎ去るのを待って、「よし、ここだ」と引き金を絞る。弾は命中した。

「でも、まだ生きてたね。上から落ちてきて、怒って吠えるんだ」

 すぐに「トメ(トドメ)」の一発を撃った。クマの動きは止まったが、岡田は以前、「じいさん」のハンターに聞いた言葉を思い出した。

写真はイメージです ©iStock.com

「クマが死んだように見えても、掌が開いているかどうか確認せえよ。もし掌が閉じていたら“死んだふり”だ。下手に近づくと危ねぇぞ」

 岡田が笑いながら当時を振り返る。

「でも、獲ったの初めてだからね。掌が開いているのか、閉じているのか、見てもわからないんだわ」

 タバコを1本吸い終えた岡田は、長い木の棒で突っつき、さらに耳の穴を狙ってもう1発撃ちこんだ。

「全部で7、8発撃ったかな。そういうもんだよ、最初なんて」

#2に続く)

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