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「オレね、6人殺しているんだ」お供え用のワンカップを持って山に入る熟練ハンターが明かした“不思議な体験”

#3

2022/05/09

 芦別の凄腕ハンターはカップ酒をもって猟に出る――。「文藝春秋」5月号より、ライターの伊藤秀倫氏による「羆を撃つ “山の神様”と勝負したい」を全文公開します。(全3回の3回目/#1#2から続く)

◆ ◆ ◆

「オレね、6人殺しているんだ」

 そう語る岡田にとって、「羆を撃つ」ことには、どんな意味があるのだろうか。

「オレは最初ね、やっぱり山の神様だから姿を見たい、というのから始まったのさ。でも『撃ちたい』『獲りたい』じゃない。山の中で山の神様と一対一で勝負したい、というのが一番近いかもしれない」

 すると急に岡田が「オレね、6人殺しているんだ」と言い出した。

「国鉄の運転手時代にね。事故もあったけど、2人は自殺だった。最初は死体を片付けるのでもガクガク膝が震えて力が入らなかったのが、そのうち何とも思わなくなったね」

写真はイメージです ©iStock.com

——なぜ、急にそんな話を?

「つまりさ、人間は死にたくて自ら線路に飛び込むことがある。けれどクマは死にたくなくて、必死に逃げているヤツを殺しているわけだ。オレがいなければ、とられなかった命。だから獲ったら祈りもするし、その肉はオレ以外の人にもわけて、わかってもらう。クマってこうなんだ、シカってこうなんだって」

 ホットプレートの上で、ヒグマの肉の脂が焦げ始めていた。

「クマとの共生」は可能なのか

 近年、これまで考えられなかったような場所にクマが出没するケースが相次いでいる。本連載の「上」で取り上げた札幌市東区における「4人襲撃事件」はその象徴だ。

 なぜクマが人間社会のど真ん中に現れるようになったのか。どうすればクマと人間との間の軋轢を最小限に止めることができるのか。

 日々、クマと対峙し続けているハンターなら、その手がかりを知っているのではないか——それが本連載の「出発点」だった。

 岡田はクマが人里に現れるようになった背景として、2018年、北海道恵庭市の山林でハンターが北海道森林管理局の職員(38)を「シカと見間違えて」射殺してしまった事件の影響を指摘する。この事件以降、今に至るまで森林管理局と北海道水産林務部は管内の国有林へのハンターの立ち入りを制限している。