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「休んだ1日1日、老いていく自分を感じざるを得ない」森山良子74歳の葛藤と“音域を半音上げる壁”に向き合う理由

森山良子さんインタビュー #3

2022/05/08

 連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』のアニー・ヒラカワ役が大きな話題を呼んだ歌手の森山良子さん。コロナ下で歌手生活55周年を迎え、これまでにない経験をしたといいます。現在は4月から始まった全国コンサートツアーの真っ最中。人生を歌に捧げ、常に上を目指し続ける74歳の「今」を聞きました。

森山良子さん

◆ ◆ ◆

昔は「歌がうまくなきゃ歌い手とは言えない」と思っていたけど

――長年、日本の音楽シーンをご覧になっている森山さんですが、最近そのパフォーマンスに驚かされたアーティストっていますか。

森山良子さん(以下、森山) いっぱいいますよ。たとえばKing Gnuとか。本当、ぶっ飛びながら聴いてます。歌詞もメロディも演奏テクニックも、すべて勉強してきているなあと。メロディラインなんて、想像つかないところに想像つかないコードで飛んでいきますよね。酸いも甘いもキュッと凝縮した「今」がある。他にもすごいミュージシャンがいるのは嬉しいです。

――才能ある若いアーティストの出現は喜びなのでしょうか。

森山 それはやっぱり刺激になりますよね。音楽の進化は、純粋に音楽好きとして嬉しいです。私なんかは、もう新しいメロディは出てこないかもしれないという時代も経験しているので、特にね。

 切磋琢磨して自分たちにしかできないものを作ろうとしている若者たちを見ると、「今の若者は」なんて言っていられません。「今の若い人たち、すごいわ~」って感服して、自分にないものばかりの今は耳をダンボにして聴いちゃいます。

――逆に、音楽で苦手なジャンルはありますか。

森山 全部「面白いっ!」って感じ。好き嫌いじゃ言い表せないですね。私たちの世界は“誰とも違う自分”が常に求められているわけですから、個性的なのは当然です。

 あえて言うなら、昔は「歌がうまくなきゃ歌い手とは言えない」という気持ちはありました。日系2世の父が英語の発音を私に口酸っぱく注意したのも、「どんなに美しい声で歌っても、歌詞が伝わらなければ意味がない」という思いからでした。音程もずいぶん注意されました。

 ただ今はもう関係ないな、って思います。いろんな壁が取っ払われて、刺激的な人たちがたくさん出てきていますから。

歌のない生活は取り残されたような気持ちに

――音楽を届けるコンサートやイベントが軒並み中止に追い込まれたこの2年ほど、森山さんにとってどんな時間でしたか。

森山 デビューしてから1年の3分の2は移動かコンサートで、こんなに家にいたことがありませんでした。歌のない生活は取り残されたような気持ちになってしまって、落ち着かない日々でした。

森山良子さんのデビューライブ(渋谷公会堂)

 それまで料理もほとんどしませんでしたので、まずは隣に娘家族が住んでいますから、夕食を作ってみんなで食べることからはじめて。あとは好きな縫い物を毎日2、3時間チクチクとやったり。

 でも「こんなことばっかりしてないで音楽もやらなきゃ!」と思って、来し方を振り返りながら人生を感じさせるような曲を作り始めたんですね。

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