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「なるほど…」控室に陣取った歴戦の雄たちは、1分将棋の藤井聡太叡王に次々と唸らされていた

「なるほど…」控室に陣取った歴戦の雄たちは、1分将棋の藤井聡太叡王に次々と唸らされていた

第7期叡王戦第1局レポート

2022/05/11
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 2020年4月、藤井聡太は七段だった。

 2021年4月、藤井は王位・棋聖の二冠王だった。

 そして2022年4月、藤井は竜王・王位・叡王・王将・棋聖の五冠王で新年度を迎えた。

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 最初のタイトル戦は叡王戦五番勝負だ。藤井は3月9日にB級1組順位戦を戦って以来、1ヶ月以上も公式対局が入ってない。ライバルであり研究会仲間との永瀬拓矢王座とはオンラインで指しているが、対面での研究会は2年以上も行えていない。対面での真剣勝負からは遠ざかっている。

 一方で竜王として免状の署名など、タイトルホルダーとしての仕事は山積みだ。調整はできているのか、と一抹の心配をしていた。

 将棋界注目の第7期叡王戦五番勝負第1局は、4月28日に行われた。

挑戦者は藤井より7歳上の出口六段、27歳

 挑戦者となったのは出口若武(わかむ)六段。年齢は藤井より7歳上、奨励会入会も5年先輩だが、棋士になったのは藤井が2年半早い。出口は兵庫県明石市出身で、1995年生まれの27歳。6歳の頃に学童保育で将棋を教わり、明石将棋センターや井上慶太九段の加古川将棋センターに通って強くなり、小学6年のときに井上門下で奨励会入りした。

出口若武六段(写真左)は、初手を指すときから拳を握りしめていたという(写真提供:日本将棋連盟)

 以降、一門の先輩に鍛えられて成長してきた。出口に取材したとき、彼はまず同門の先輩への感謝を口にした。

「井上一門の研究会が月に2回ありまして。兄弟子の稲葉陽八段と菅井竜也八段には大変お世話になりました」

 出口は奨励会三段の頃、菅井の声かけで行われた合宿にも参加したことがある。この合宿には深浦康市九段もいて、当時の出口についてこう語った。

「菅井さんに誘われて、島根県で行われた棋士・奨励会員だけの研究会に参加したことがあったんです。そこで三段時代の出口君と指しました。なんでも指しこなす器用な将棋で、振り飛車を指された記憶があります」

 出口は17歳で三段になったが、三段リーグでは苦戦する。高校卒業後は大学には進まず将棋の勉強に励み、関西での評価も高かったが、なかなか三段リーグを抜けられなかった。そこで、振り飛車だけでなく、居飛車の将棋を徐々に増やした。

初参加の順位戦では、降級点を取ってしまったが…

 2018年10月、新人王戦で梶浦宏孝四段や澤田真吾六段(段位はいずれも当時)を破って決勝に進出したのが転機となった。藤井七段との三番勝負は2連敗と完敗だったが、この実績が自信になり、翌年の3月、2018年度後期三段リーグを戦い抜き、14勝4敗で四段に昇段した。三段リーグ6年12期目にしての昇段だった。

 出口はプロになってからも苦戦した。初参加のC級2組順位戦では、3勝7敗と降級点を取ってしまったのだ。ところが翌年の順位戦、9勝1敗でなんと昇級。新人が1年目降級点をとり、2年目で昇級するのは初めてのことだ。

 さらに昨年4月、北村桂香女流初段との結婚を発表してから飛躍は続く。

 第7期叡王戦では五段予選を4連勝で抜けて、本戦トーナメントでは村田顕弘六段、斎藤慎太郎八段、佐藤天彦九段とA級棋士2人を破って決勝進出。服部慎一郎四段との新鋭対決となった決勝戦では、終盤不利でなおかつ1分将棋という状況から、歩頭の桂の鬼手を決めて逆転勝ち。挑戦権を掴んだ。棋士になって4年目でのタイトル挑戦は素晴らしい。