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少々強引な理屈だが、そう言ってやろうとおばさんに体を向けたそのとき、いつからそこにいたのかSVがタイミングよく入ってきた。

「自分の仕事をしていただいていいですよ。私が見てますから」

おばさんに向かって諭すように言う。

「だって慶応大学の学生さんにあんな話し方じゃあ……」
「私が見てますから、いいですよ」

おばさんは不満そうな顔をしながらも仕事に戻った。

私も発信を続けた。すると後ろで私の話し方を聞いていたSVが、笑みを見せながら柔らかに言ってきた。

「丁寧でこちらとしても嬉しいですが、もうちょっと速くてもいいかもしれませんよ。リズムも大事ですから」

言っていることはおばさんと同じなのに、言われたほうの受け取り方はまるで違う。アドバイスをもらったという気持ちになり、従ってみようと思える(※3)。コミュニケーション能力とはこういうことをいうのだろう。

※3:無理やり従わせるのではなく、従ってみようと思わせる。これができれば、うつ病をやむ社員は減り、パワハラで訴えられる上司も少なくなるのではないか。サラリーマン時代を振り返って、そう実感する。

偏差値が下がれば下がるほど高まる「真剣度」

電話は偏差値の高いところから順にかけていくらしく、慶応大学が終わると中央大学や法政大学になり、それが終わると日本大学や駒沢大学になった。

それにともない笑われることもなくなった。それが話し方を速めたせいなのか、偏差値の違いからくるものなのかはわからなかったが、これが採用連絡における受け答えの本来の姿だろう。学生の中には採用を保留する者もいる。

「たいへん光栄なのですが、お返事は少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「さきほどお伝えした番号におかけいただき、そのようにおっしゃっていただければ大丈夫です」
「じつは連絡を待っている会社がほかにもありまして。そちらの結果が出てから、きちんとお返事したいと思います」
「わかりました。お電話お待ちしております」

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