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※5:電子メールが普及する前は、電話で用件を伝えることがふつうだった。番号を直接ダイヤルするので間違い電話もよくあった。私の留守番電話にも「高橋さん、先に行ってますよ。場所わかるよね?」といったものや、「食堂の丸藤ですけども、パン粉袋とマヨネーズといつもの油、お願いします」というメッセージが入っていたことがある。

「凸凹大学の殿岡さまでいらっしゃいますでしょうか?」
「はい……」

この時点では内定の連絡とわからず、何かの勧誘の電話ではないかと疑っている。

「メリルガン証券採用担当・吉川と申します。先日は面接にお越しいただき、ありがとうございました」
「あっ、はい、いえ、こちらこそありがとうございました」

慌て方に緊張の度合いがわかる。

「採用させていただきます。今後のスケジュールにつきましては別途お話しさせていただきますので、ご都合のよろしいときに、これから申しあげる番号にご連絡いただけますでしょうか?」
「ちょっ、ちょっと待ってください。今、筆記用具を出します。すみません。ちょっとお待ちください。すみません。はい、大丈夫です」
「番号は03–55××–××××です。それではご連絡をお待ちしております」
「どうもありがとうございました!」

携帯電話を耳に当てたまま頭を下げている姿が見えるようだ。

「こちらの方が嬉しくなる」ホームで大喜びの内定者

電話したときに電車に乗っていた学生もいた。

「卍卍大学の兵動さまでいらっしゃいますでしょうか?」
「あとで折り返します。今、電車の中なので」
「メリルガン証券採用担当・吉川と申します。折り返しの番号は……」
「あっ、しょ、少々お待ちください。もうすぐ駅に着きますので」

沈黙が10秒ほど続き、ドアの開く音がしたかと思うと、ざわついた音や乗り換えのアナウンスに混じって、

「今、降りました!」
「よろしいでしょうか?」
「少々お待ちください! ホームのはじに行きます!」

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