ざわつきが次第に遠ざかる。
「はい! 大丈夫です!」
「先日は面接にお越しいただき、ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました!」
「採用させていただきます」
「ありがとうございます!」
「今後のスケジュールにつきましては別途お話しさせていただきますので」
「ありがとうございます!」
「ご都合のよろしいときに、これから申しあげ……」
「しょ、少々お待ちください!」
電車の通過する音が聞こえる。
「すみません! も、もう一度お願いします!」
「ご都合のよろしいときに、これから申しあげる番号にご連絡いただけますでしょうか」
「かしこまりました!」
「番号は03–55××–××××です。ご連絡をお待ちしております」
「ありがとうございます! ありがとうございます‼」
こちらが嬉しくなるほど喜んでいる。
一流大を卒業したら本当に幸せなのか
この外資系証券会社は、慶応大学クラスの学生にとっては内定して当たり前の会社なのだろう。面接の雰囲気に慣れるためだけに受けている学生もいるのかもしれない。
私が就職活動をしていた30年前はバブルの時期(※6)で、内定をひとりでいくつも取るのがふつうだった。
※6:1980年代半ばから1990年代初めまでの好景気の時期。「ジュリアナ」などのディスコが賑わい、六本木には階建てのフロアのほとんどがディスコというビルもあった。金のなかった私は当時、入場料が半額になる22時や23時を待って入店し、無料の料理とウイスキーで空腹を満たしていた。
就職情報誌には「どこでもいいからまず1社内定を取る。それによって心に余裕が生まれ、本命の会社で緊張せずに力を発揮できる」といったようなことが書かれていた。大学の前で毎日のように会社説明会の案内を配り、学生から「これだけ配るってことは、よっぽど人が集まらないんだな」「練習のつもりで受けてみるかな」などと言われていた会社もあった。