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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

「純子たちがしっかりしてさえおれば…」北九州監禁連続殺人事件の遺族が語る“発覚からの20年間”

完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件 #102(最終回)

2022/05/17

genre : ニュース, 社会

 起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第102回/最終回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

緒方の妹の夫・緒方隆也さんの実家へ

 2002年3月の事件発覚から20年を経た22年3月某日、遺族の声を聞くために、福岡県北九州市の広田由紀夫さん(仮名、松永太と緒方純子を除き以下同)の実家を訪ねた私は、その翌日、同県久留米市へと向かった。

 そこでまず目指したのは、緒方の妹の夫だった、緒方隆也さんの実家である西浦家だ。西浦家は過去の記事(本連載第82回)で取り上げたが、松永と緒方の1審において、母のA子さん、兄のBさん、弟のCさんがそれぞれ、両被告の極刑を望む強い処罰感情を訴えていた。

 玄関先でインターホンを鳴らした私に対応したのは、兄のBさんだった。母のA子さんに話を伺えないかと尋ねたところ、いまは体調を崩しており、取材を受けられる状態ではないという。

小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

 私はBさんに対して、20年の歳月を経たことで、松永や緒方に対する処罰感情になにか変化は生じていないか質問した。

「いえ、なにも変わってないですね」

 簡潔な返答だった。そのことが却って、揺るぎない思いであることを強調する。

 念のためそれはA子さんも同様であるか尋ねたところ、静かに「そうですね」と頷く。

 それ以上の質問ができなかった私は、思い出したくないであろう記憶を喚起させてしまった非礼を詫びて、その場を辞した。

緒方の父・孝さんの弟を訪ねて

 続いて訪ねたのは、緒方の父である孝さんの弟の家だ。西浦家の記事と同じく、過去にも(本連載第81回)緒方家親族Aと記し、被害者の兄弟でありながら、加害者である緒方の親族でもあるという、複雑な処罰感情を取り上げている。ここではAさんとさせていただく。

 インターホンを鳴らすと、Aさん本人が玄関先に現れた。私が名乗り、事件の関係先を回っていることを告げると、申し訳なさそうに言う。

「ああ、その件だったらもう、お断りします。せっかくもう、長年経って、あれしよっとからですね。もう、思い出すようなことは……」

 長い時間が経って、やっと落ち着いてきたので、静かにしておいてもらいたいとのニュアンスだった。

「純子さんから手紙とかは?」

「はい、もうまったく、なんもないです」

 私は、「お騒がせしてすみませんでした」と口にすると、手にしていた自分の名刺を、これだけでも受け取っていただけないかと差し出した。Aさんは一歩前に出て名刺を受け取ると、「はい。きちんとやっとりますんで」と口にして、頭を下げる。

 さすがにこれ以上は留まることができない。私は深く頭を下げて、玄関を閉じた。先のBさんもそうだが、対応していただけただけでも、ありがたいことだった。