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「俺が岩鬼にホームランを打たれるはずがない」現役プロ野球選手が水島新司を訴えた「ドカベン裁判」のその後

『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』 #2

2022/05/25
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 西武ライオンズの現役選手が、漫画家の水島新司を名誉毀損で訴えた前代未聞の「ドカベン裁判」はどう決着がついたのか? その驚きの顛末を、水島新司を誰よりも敬愛する構成作家・オグマナオト氏の新刊『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

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「俺が岩鬼にホームランを打たれるはずがない」

 かつてTBSで放送された『ウンナンの桜吹雪は知っている』というバラエティをご存じだろうか。ウッチャンナンチャンが代理人に扮し、芸能人や著名人が「自身に起きたことで納得いかないこと、企業に対する不満や訴えを取り上げる」という模擬裁判企画のテレビ番組だ。

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 1996年1月5日、この番組に“原告”として登場し、『ドカベン プロ野球編』とその作者・水島新司を訴えたプロ野球選手がいる。当時、西武ライオンズで現役投手だった“ナベQ”こと、渡辺久信。題して「ドカベン訴訟」が開廷した。

原告・渡辺久信が「ドカベン裁判」で訴えたこととは? ©文藝春秋

 訴訟の内容は、前年にスタートした『ドカベン プロ野球編』の開幕試合、西武ライオンズVS福岡ダイエーホークスでのこと。開幕投手として(劇中で)マウンドに立った渡辺は、ホークスの1番、岩鬼正美への初球、誘いに乗って悪球を投げてしまい、高卒新人に開幕初球ホームランを被弾、という屈辱を喫してしまう。

 だが渡辺はこの打たれた場面について、「俺が岩鬼にホームランを打たれるはずがない」と主張し、名誉棄損の訴えを(番組企画として)起こしたのだ。

 渡辺側が損害賠償として求めたのは、「『ドカベン プロ野球編』の作品の中で、自分に新魔球を投げさせること。完全試合達成の場面を描くこと」の2点。裁判長を務めた俳優・二谷英明が下した判決は、原告・渡辺久信の勝訴。

 被告・水島は判決に従い、1996年シーズンの西武対ダイエーの試合において、渡辺久信の完全試合を描くことに(「プロ野球 編8巻」に収録)。

 新魔球として、里中智の決め球「スカイフォーク」をもじった「ブルースカイフォーク」なる魔球を投げさせることも忘れなかった(投げてみたらうまく落ちなかった、という“オチ”ではあったのだが)。