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「逮捕後の文通では保釈金の支援を求めてきたり…」裁判傍聴と逃亡同行者の証言が明かす“脱走犯”のリアル

「逮捕後の文通では保釈金の支援を求めてきたり…」裁判傍聴と逃亡同行者の証言が明かす“脱走犯”のリアル

高橋ユキ『逃げるが勝ち』インタビュー #1

2022/06/09
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 裁判傍聴をはじめとする犯罪取材で活躍中の高橋ユキ氏は、今月、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)を上梓した。国外逃亡したカルロス・ゴーンや、「ゴールデンカムイ」の白石由竹のモデルになった脱獄王など、様々な逃亡者について記したものだ。

 本書の柱となるのは2018年におきた2つの脱走事件――刑務所を脱獄した男は離島から本州まで海を泳いでわたり(松山刑務所脱走事件)、かたや警察署を抜け出した男は自転車で四国・中国地方を回って逃げ続けた(富田林署脱走事件)、これらについて、高橋氏に話を聞いた。(全2回の1回目。後編を読む)

愛媛の刑務所から脱走し、海を渡って、最後は広島で逮捕された ©️iSrtock.com

海を泳いで渡った野宮、松山刑務所脱走のささかやかなきっかけ

――まずは2018年4月に愛媛県の“塀のない刑務所”松山刑務所大井造船作業場を脱走し、離島の空き家に潜伏後、海を泳いで渡って、最後は広島市で逮捕された野宮信一(仮名、当時27歳)についてうかがいます。彼は脱獄にあたって、「すいませんでした」と置き手紙を残すあたりに性格が見えます。

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高橋 野宮は礼儀正しく落ち着いた印象です。逮捕後に彼と文通をしましたが、手紙の文面はへり下っていて、文字も丁寧でした。差し入れにしても、たとえば『つけびの村』(山口連続殺人放火事件)で書いた犯人は、佐伯泰英『居眠り磐音』全27冊(当時)を求めてきたのですが、野宮の場合は資格試験のための参考書でした。ちゃんと先のことを考えている人なんだと思いましたね。とはいえ、出所まであと1年9ヶ月で脱走した犯人なのですが……。

――残り2年で脱走する、その理由がいまいちピンと来ません。

高橋 理由のひとつには、出所していった元受刑者の座布団を使っていたところ、他の人たちも物品の使い回しをしているのに、自分だけが怒られたことがあります。見せしめのように叱咤され、受刑者内の立場も一番下になったことで「私の居場所がもうない」と思うにいたったと、寮の部屋に残していった父親宛の手紙に綴られていました。

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