文春オンライン
文春野球コラム

中4日で先発した年よりリリーフのほうがキツい…元オリックスの“レジェンド”が明かすプロの調整

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/06/07
note

 先週火曜日のDeNA戦でレジェンドOB対決という企画があり、久しぶりにオリックスのユニフォームを着て、マウンドから投げました。同級生の田代相手に3球。ストライクゾーンにいってホッとしながら、やっぱりNPBのボールは投げやすかった。今、関メディベースボール学院でピッチャーを教えてるんですけど、同じ硬球でもいつも使ってるのとは全然感触が違った。手にしっかり馴染むし、軽い。投げやすいだけでなく、これは打ったら飛ぶわ、と改めて思いました。

現役時代の筆者・佐藤義則 ©文藝春秋

山本由伸でも6勝…投高打低でも伸びない勝ち星

 でも、今季のNPBではバッターが軒並み苦労してますね。3割打者がパは4人、セは3人しかいなくてパはホームランも2桁に乗ってるのが山川と万波(日ハム)、レアード(ロッテ)の3人だけ。オリックスは吉田も休んでいたので3割も2桁ホームランの打者もいない。

 野球界全体が完全に投高打低のシーズン。

ADVERTISEMENT

 普通に考えて、それだけ投手がいいということなのか、防御率1点台がパは少し前まで7人程いましたからね。俺が現役の頃から考えても、こんなシーズンがあったかな。統一球で騒がれた時も投手優位だったけど、あの時は明らかに打球が飛ばず、失速してた。でも今はそういう感じでもない。

 最近はどのチームも出て来るピッチャー、ピッチャー、150キロ以上のボールを投げる。先発は疲れる前にマウンド降りるし、試合後半には1回ずつ元気なピッチャーが全力で力のあるボールを投げてくる。そう思うと簡単には打てないか。

 ただ、ピッチャーの防御率はいいけど、パでも一番勝ってるのは山本の6勝で5勝が3人。みんなが調子いいから、というのもあるけど、登板数が少ないから勝ち星は極端に増えない。今は中6日が主流だからね。

 俺が21勝を挙げたのは37年も前だけど35試合投げて先発が34試合。オールスターまでに15勝して、堀内さん以来って言われてね、中4日で1年間最後まで投げたから。

 去年の山本が18勝5敗でしょ。先発として完璧な数字で5回しか負けてないけど20勝に届かない。確認したら登板試合数、先発とも26試合。今は144試合で当時は130試合だから、中6日と中4日の2日の違いで年間10試合の差が出る。

 今の時代に20勝するっていうのはほんと大変なことだね。それでもそこへチャレンジしてほしいけど、今は「20勝」にそこまで憧れる投手もいないのかな。先発でいいピッチングをしていても終盤になるとアッサリ交代。悔しさも見せず降りる場面もよく見るからね。俺たちの頃は先発は完投、エースは勝敗が着くまでマウンドを降りないのが当たり前だったけど、今は2試合連続完全試合目前でも普通にマウンドを降りるんだから。

 まあ、それが時代と言えばそうなんだろうけど。

 ついでに言わせてもらうと、21勝の86年は34試合に先発のうち完投が23。去年のパ・リーグの完投数がリーグ全体で25。俺の時は130試合制だったからほぼ同じ数。これはなかなかでしょ!? 田中やダルビッシュと話す時でも、「21勝じゃないんだ、こっちを見てくれ」って23完投をさして自慢させてもらってましたよ(笑)

先発ピッチャーの「中6日の過ごし方」

 中4日が中5日になって今は中6日が主流、つまり1週間に1回。あとの6日をどう過ごしているの?と思う人もいるだろうね。

 球団にもよって多少変わるところはあるけど、一般的には中6日の場合、登板翌日は練習に出て軽いトレーニングとキャッチボールをしてクールダウン。2日目は練習免除で休養。3日目、4日目もトレーニングとキャッチボール。5日目にピッチングを40、50球して、登板前日は体を動かして翌日に備える。

 これが今の多くの先発投手のパターン。だけど、俺はこれが不満でね。オリックス(2軍)、阪神、日本ハム、楽天、ソフトバンクでピッチングコーチをしてきたけど、どこへ行っても要望してきたことがある。それは「次の先発までに2回ブルペンに入るようにしてくれ」ってこと。

 今は中6日でも5日でも、ほとんど登板前々日に1回しか投げない。そうじゃなく、間にもう1回ブルペンに入ってくれ、と。

 俺たちが中4日で投げていた時は登板翌日が休みで2日目にブルペンで投げて、3日目は軽くキャッチボールにランニング。前日にもう1回投げて試合だった。

 登板前々日に1回しかブルペンに入らないと、前の試合で悪かったり、調子がずっと上がらない時にどこで調整するの?と思う。登板の前々日や前日に投げている時じゃ何も試せないし、こっちも何も言えない。3日目にブルペンへ入ってくれたらいろいろと試せる。だけど、今は投げたがらないピッチャーが多いんだよね。

 ブルペンで投げる時の球数も俺らは70、80球を常に投げてたけど今は40、50程。それを前日に投げるのもたまにいるけど、だいたいは前々日。

 俺らの時代は山田さんも今井さんもみんな前日に投げていたし、そもそも中4日で2回ブルペンに入るとしたら自然とそうなる。

 思うのは当時の人たちはすごく感覚を大事にしていたということ。

 前日に投げた方が翌日試合で投げる時に感覚が残るからね。前々日に投げたがる今の子の理屈は、休み肩みたいに肩を軽くした状態で投げたいんじゃないかな。これはあくまで予想だけど、当たってるとしたら当時と今の投手の考え方の違いがなんとなく分かるよね。

 ただね、前日に投げないピッチャーは、雨で試合が流れてスライド登板となった時にも影響が出やすい。普段前日に投げないということはスライドになっても投げたがらない。そうなると登板前に2日投げずに先発することになる。

 器用じゃないタイプのピッチャーがこれをやると俺のコーチ経験上、上手くいかないことが多かった。明らかにそのあたりがどうかなと思った時は、調整法を考えるように言ったけどね。

 最近の投手に感じるのは、調整にしても、変えることを恐れるのか、自分がやってきたことが正しいと思うのか、新しいことを試したがらない。いろいろやってみて自分に合うものが見つかったら、調子の悪い時に試せたり、新たな引き出しになるんだから試したらいいと思うんだけどね。

文春野球学校開講!