テレビ、新聞、ネットニュースでは、日々、あらゆる情報が流れては消えていく。しかし、この世で実際に起きていることは、大手メディアが報じる“大きな声”だけではない。
人々の“声なきこえ”をしっかりと伝え、記録に残したい――。
そんな思いから2020年10月に立ち上がったのが、YouTubeチャンネル「日影のこえ」だ。メディアで報じられた重大事件の「その後」を追い、決してマスメディアが伝えない「名もなき人たち」の声を取材し、ドキュメンタリーとして伝える。それは図らずも、事件の真の犯行動機や、表層の奥に隠された“真実”に迫るものになることも多かったという。
そんな取材を続けてきた「日影のこえ」取材班とノンフィクションライターの高木瑞穂氏が、自身の関わった多くの事件について記した著書『日影のこえ メディアが伝えない重大事件のもう一つの真実』(鉄人社)より、2019年に起きた京都アニメーション放火殺人事件を抜粋して転載する。(全2回の1回目/後編を読む)
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京都アニメーションの火災のニュース
テレビをつけニュース番組にチャンネルを合わせると、小麦色の建物からもくもくと黒煙が立ちのぼる映像が流れていた。
2019年7月18日午前10時半過ぎ。京都府京都市伏見区の住宅街に位置する『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『涼宮ハルヒの憂鬱』など数々の人気アニメ作品を世に送り出してきた、京都アニメーションの第1スタジオ。
地上からの映像のあと、やがて中継は空撮に切り替わった。ブルーシートの隙間からストレッチャーで運ばれる人々。消防隊は必死に消火活動を続けているが、それを嘲笑わらうかの如く炎と煙は衰えを見せない。
再び画面が切り替わり、今度は全身にヤケドを負い道路に倒れこむ、赤いTシャツに青のジーパン姿の男を映し出した。のちに判明するのだが、建物1階に侵入し、バケツからガソリンを撒いて放火し、アニメクリエーターら36人の命を奪った加害者、青葉真司(当時41歳)である。男の両腕はヤケドで皮膚がめくれ、ジーパンの右足部分からは小さな炎と煙が出ている。火事の被害者に違いないとばかりにホースで水をかける近隣住民。男はこのとき、9割以上の皮膚が焼け瀕死の状態だった。
「話しかけんな、ふざけんな!」
駆けつけた警察官や住民たちから心配の声があがるなか、青葉は叫んだ。やがて放火は青葉の仕業だとわかり、警察官が身柄を確保すると「俺の作品をパクりやがったんだ!」と怒りに声を震わせた。
青葉が何のために放火し、多くの命を奪ったのか、その動機は事件から3年が過ぎた現在も裁判が始まっていないため、はっきりとはしていない。ただし、京都アニメーションに対して強い憎悪があったことは、奇跡的に生き延びた彼が明確に話している。
「ガソリンを使えば多くの人を殺害できると思い、実行した」