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犯人だけが生き残っている

 凶行の日は、出所から3年半が過ぎた2019年7月18日のことだった。数週間前には、事件現場に持ち込まれた包丁6本をさいたま市内の量販店で、前日午前にはホームセンターでガソリン携行缶や台車を購入し犯行に及ぶ。ガソリンを撒き、ライターで火をつけ、京都アニメーションの第1スタジオは炎の海と化した。

 青葉は自身の衣服にも引火した状態で逃走したが、現場から南へ100メートル離れた路上で火災被害から逃れた2人の男性社員に取り押さえられる。ほどなく駆けつけた京都府伏見警察署員が身柄を確保し、病院へと搬送。危篤状態にありながらも奇跡的に快方に向かったことで2020年5月27日、殺人・殺人未遂・現住建造物等放火・建造物侵入・銃刀法違反で逮捕となった。建物は全焼。死亡者36人。負傷者35人。殺人事件では戦後最多の死者数を出しながら、奇しくも当の青葉だけは生き残っている。

犯行当日、防犯カメラが捉えた青葉

 青葉の半生を綴ったユーチューブ動画を公開すると、青葉をよく知る男性から連絡があり、僕はさらなる負の連鎖を知らされることになる。

「実は青葉の兄も自殺しているんです。5人家族のうち父、兄、妹が自死を選び、母親は離婚後に別家庭を持ったため疎遠に。そのことをどうしても伝えたかったのです」

社会のセーフティネットを見直す一助になればと…

 2020年12月16日、青葉は前述の5つの罪で京都地検より起訴される。犯行動機などについては、身柄を確保された際に「俺の作品をパクりやがったんだ!」と声高に叫んだことからして、京都アニメーションに大きな憎悪を抱いていたことは明らかだろう。実際、青葉は京アニ主催の『京都アニメーション大賞』へ小説を応募していた。だが同社は、彼の小説は形式的な一次審査で落選していたと説明し、そのうえで「盗用の余地はなかった」と反論する。

犯行当日、ヤケドを負って逃走し路上で拘束された際の様子
(『ANN NEWS』の映像より)

 前出の青葉をよく知る男性は言う。

「もちろん青葉の起こした事件は許されることではないけれど、青葉という人物がなぜ生まれたのか正しく伝えてほしいんです」

 犯行動機を京アニへの逆恨みだけとし、凶悪犯の半生を知ることなど無意味で空虚なこととは、僕も思わない。社会のセーフティネットを見直す一助になればと期待する。だから書いた。できるだけ余さず青葉を、一家を記した。青葉は裁判で何を語るのか。通常より刑期が重くなることが多い裁判員裁判が決まった初公判が始まるのは、まだ先のことだ。

日影のこえ メディアが伝えない重大事件のもう一つの真実

高木瑞穂 ,You Tube「日影のこえ」取材班

鉄人社

2022年6月24日 発売

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