文春オンライン

「今回の社長交代には納得できない」リクシルを追われた“プロ経営者”が創業家と全面戦争へ…CEO復帰を明言した“逆襲の記者会見”

『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #3

2022/06/24

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 社会, 企業, 経済

note

 2018年10月31日、LIXILグループ(現LIXIL)は突如として瀬戸欣哉社長兼CEOの退任と、創業家出身の潮田洋一郎取締役の会長兼CEO復帰を発表。外部から招へいした「プロ経営者」の瀬戸氏を創業家が追い出す形となった。しかし2019年6月25日、会社側に戦いを挑んだ瀬戸氏が株主総会で勝利し、社長兼CEOに“復活”する。

 ここでは、一連の社長交代劇の裏側に迫ったジャーナリスト・秋場大輔氏の著書『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(文藝春秋)から一部を抜粋。2019年4月5日、東京・大手町のオフィスビルで記者会見を開いた瀬戸氏は、CEOに復帰してLIXILグループを立て直すことを表明する。(全4回の3回目/4回目に続く

◆◆◆

ADVERTISEMENT

号砲を鳴らす日

 2019年4月5日の東京は、雲の切れ間から時折日差しが地面に届くような天気だった。この時期にしては少々蒸し暑い日に、東京・日本橋にある吉野の事務所には朝から続々と人が入ってきて、「久しぶり」「元気だった?」などと声を掛け合った。

 声の主は瀬戸が立ち上げたモノタロウのOBやOGである。モノタロウは本社を兵庫県尼崎市に置いていて、社員のほとんどは関西に住んでいる。吉野の事務所に集まった面々は前日に東京へやってきてビジネスホテルに宿泊し、この日の朝、地図を頼りに地下鉄の日本橋駅から少し離れたところにある吉野の事務所へやってきたのだ。

「最近は何してんの?」

「家の近くに畑を借りて、きゅうりやらトマトやらを植えてんねん。この歳やから、体がきつくてかなわんわ」

 OBとOGが、まるで同窓会が開かれているかのような会話を関西弁でしているところに瀬戸が現れた。

「急なお願いで本当に悪かったね。東京へは昨日来たんでしょ。よく休めた?」

 瀬戸がお礼と労いの言葉をかけると、1人が答えた。

「いや、電話をくれて嬉しかったわ。新聞やテレビで瀬戸さんが大変な目に遭うていることは知ってましたから。こんな時にお役に立てることがあるなんて、ありがたいお話ですわ」

LIXILグループ(現LIXIL)社長兼CEO(最高経営責任者)の瀬戸欣哉氏 ©文藝春秋

 瀬戸は2018年10月31日に開かれた記者会見の冒頭で「皆さんにお会いするのもこれで最後になると思いますけれど……」と、表舞台に立つのはこれが最後であるかのようなことを言った。

 しかしその後、潮田と山梨を解任し、CEOに復帰してLIXILグループを立て直そうと考えを改めた。それがDo The Right Thingだと思ったからだ。もっともこの試みが正義であることは、指名委員会や株主からの賛同を得て初めて証明できるものでもあった。それには公の場に立ち、世間に訴える必要がある。4月5日はその号砲を鳴らす日だ。

 瀬戸はこの日に備えてAというPR会社と契約を結んでいた。会見場の設営や記者会見の司会進行はもちろんのこと、当日、メディアに配る資料を作成したり、質疑応答に備えて想定問答を作ったりするのがAの仕事だった。

 しかしAは記者会見の直前になって突然、契約の解除を申し入れてきた。瀬戸が理由を尋ねると、担当者はこう言った。