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頭の中は野球でいっぱい…DeNA・森敬斗に感じる『1番ショート』というロマン

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/01

 6月23日の巨人戦、6回表の攻撃。8番ショートで先発出場した森敬斗選手が、プロ初ホームランを放ちました。試合は7-5でベイスターズが勝利しました。

「率直にうれしいです。つなごうという意識の結果がホームランになりました。入るとは思わなかったので全力で走りました」

 キリっとした眉に、大きな瞳。プレー中の凛々しい表情と打って変わって、ヒーローインタビューではアイドル級の笑顔での初々しい受け答えが印象的でした。そしてその姿を眺める私の頭の中では、「1番ショート、森」というフレーズが何回も繰り返されていました。

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第1号本塁打を放ちヒーローインタビューを終えポーズを決める森敬斗

「1番ショート、森」への期待が膨らむ理由

 2019年のドラフト1位。この年のドラフトは大船渡高の佐々木朗希(ロッテ)、星稜高の奥川恭伸(ヤクルト)、東邦高の石川昂弥(中日)ら高校生に逸材が多く、12球団中、実に7チームが高校生を1位指名しています。これまで即戦力大学生投手を中心に指名してきた横浜DeNAベイスターズにとっても、ドラ1高校生野手の入団は2009年の筒香嘉智以来。森選手に対する球団の期待の高さがうかがえます。

 森選手がプロから注目されるようになったのは、桐蔭学園高2年生時の関東大会1回戦。優勝候補といわれた常総学院戦で放った逆転サヨナラ満塁ホームランです。劇的な一打でプロ関係者に勝負強さを強烈に印象付けました。加えて50メートル5秒8の俊足に遠投120メートルの強肩。高校侍ジャパンでは、遊撃手ながら1番センターを任され、対応力の高さも見せています。当時、二遊間の固定に課題を持っていたベイスターズが、佐々木や奥川に目もくれず、森敬斗の単独1位指名に踏み切ったのは、地元横浜の桐蔭学園高出身ということだけではなかったはずです。

2019年11月に行われた新入団選手発表会。色紙に書いた「泰銘」は、森選手自身による造語。“泰”は物事に動じない、“銘”にはファンを魅了するという意味が込められている ©小貫正貴

 球団の歴史を遡って、チームを代表する遊撃手として真っ先に思い浮かぶのが、山下大輔氏と、現在の野手総合コーチである石井琢朗氏の二人かと思います。

 慶応大学出身の山下氏は東京六大学野球リーグで首位打者1回、ベストナイン4回を獲得。甘いマスクで「慶応のプリンス」と呼ばれたスター選手でした。1973年ドラフト1位で入団すると、2年目の1975年から遊撃のレギュラーに定着。翌年から8年連続ダイヤモンドグラブ賞(現在のゴールデングラブ賞)を受賞し、チームの顔として活躍しました。2003年からの2年間は、生え抜きOBとして監督も務めています。

 石井コーチは足利工業高から1988年ドラフト外で、投手として入団。4年目の1992年から野手に転向し、おもに三塁を守りました。遊撃に定着したのは1996年からで、1998年のリーグ優勝&日本一に盗塁王、最多安打で貢献。広島へ移籍する2008年までの間に、盗塁王4回、最多安打2回、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回(三塁手で3回)を受賞しています。通算2432安打はNPB歴代11位となっています。

 二人とも時代を代表する遊撃手であるとともに、1番打者としてチームをけん引する存在でもありました。さらに選手会長を務め、チームリーダーとしてまとめ役も担ってきました。ついでに言うと“イケメン”という共通点もあります。私の中にこの二人のイメージがあるからでしょうか、ベイスターズの1番打者は遊撃手(+イケメン)がよく似合うように思います。だからこそ「1番ショート、森」への期待が膨らむのです。

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