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さよなら駿太…僕たちオリックスファンは君の才能を今でも信じてる

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/10
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「明日も授業やから、もう帰るわ」

 そう言って、安い居酒屋を出ると時間は午前1時。新型コロナの影響もあって、最近は神戸から自宅に戻る終電の時間も以前よりかなり早くなっている。研究室で寝る訳にもいかんから、タクシー拾って帰るしかないな。でも、持ち合わせの金額で足りるかな。それで、そのタクシーはどこにおるんやろう。

 そう思いながら財布の中を確認してから、ふらふらと国道まで歩いていく。何だか飲みすぎてしまったし、ずいぶん散財した気もするけど、久々に院生さんとの飲み会をして楽しかったな。ちょっと盛り上がりすぎた気もするけど、皆、話したいことが沢山あったみたいだから良かったな。やっぱり、若い学生さんが笑顔でいるのを見るのは嬉しいや。大学教員になって良かったな。

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小さくみすぼらしく見えてくる自分

 でも、改めて思う。あれだけはしゃいでいた、という事は逆に、彼らもいろいろと悩みごとを抱えている、ということ何だろう。考えてみれば、大学院に進もうとするのは、多くは、ある程度は研究が好きで、それなりに自信を持っている学生さん達だ。日本の大学を取り巻く環境がこれほど厳しい中、わざわざこの世界に飛び込んで来ようとするのは、それなりの覚悟があっての事だろう。考えてみれば、連中、偉いよな。

 とはいえ、そうやって大学院に進んだ学生が、皆が皆、研究の世界で成功するかと言えば、そうではない。授業の内容は学部時代より格段に難しいし、一緒に机を並べる仲間の中にはとてもつもなく出来る奴もいる。あれ、俺ってこんなにダメな学生だったっけ、どうして同じ様に勉強しているのに、皆と同じ結果を出せないんだろう。そうして、持っていた筈の自信を少しずつ削られ、失っていく。

 そしてその悩みは、研究の世界でもどこでも、人生のステージを上がるに連れて深くなる。修士論文が上手く書けても、次には博士論文が待っているし、何よりも国内外の学会での報告や論文の執筆をこなす必要がある。ステージが上がれば上がる程、競争相手の能力は高くなり、結果として、自分自身の姿が小さくみすぼらしく見えて来る。

 勿論、そんな過酷な競争を乗り切る事の出来る人もいる。面白いのは、それが時にそれまでは余り周囲から期待されていなかった人だったりする事だ。これまで数多くの失敗を経験した彼らは、それ故に失敗する事に、良い意味で慣れている。だから壁にぶつかっても、そこから大きなダメージを受けずにもう一度チャレンジする事ができる。何故なら、それは彼らにとっては「これまでもやって来た事」だからである。だから幼い頃から失敗を重ねて来た人達は、時に逆境に強い。有名な野球選手の言葉を借りれば「草魂」という奴だ。周囲からの期待が小さいから無駄なプレッシャーも少ない。

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