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応援歌を歌えない今だから…伝説の“マリーンズ元応援団長”とカラオケに行った話

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/25
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 千葉ロッテマリーンズには日本一の応援がある。新入団選手たちは口を揃えて「マリンの応援の中でプレイをするのが楽しみ」と言い、ファンもそのプライドを胸に応援歌を歌う。そんな当たり前だった光景がZOZOマリンスタジアムから失われてもう2年も経ってしまった。

 開幕延期や無観客開催を余儀なくされた2020年。それを思えば満員のスタジアムで、太鼓と手拍子で応援できるようにまで戻ったのは大きな進歩かもしれない。マリンに行けば選手たちは躍動し、マーくんやM☆Splash!!は手を振って出迎えてくれる。谷保さんのアナウンスは高らかだし、もつ煮もビールもウマい。だいたいのことは元通りだ。

 が、相手を音量で圧倒する大声援が聞こえないマリンは、まるで廃刀令が公布されたあとの士族のよう。大切な武器を取り上げられ、心にポッカリと穴が開いたような寂しい気持ちにもなってしまうのだ。

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こんなときこそ、ジントシオに会いたい

 そんなとき、ふと会いたくなった男がいる。千葉ロッテマリーンズ応援団の元団長・ジントシオ氏だ。

写真左・ジントシオ氏 右は筆者 ©野島慎一郎

 ジンさんは筆者と同い年で、マリーンズでいうと久保康友や寺本四郎などと同学年。最近になって普通に飲みに行く仲となったのだが、ジンさんをただの同い年の飲み友達と言ってしまうのはマリーンズファンの筆者にとってあまりにもおそれ多すぎる。ジンさんはマリーンズの応援の礎を築いたレジェンドと言っても過言ではないからだ。

 高校入学と同時に千葉ロッテマリーンズの応援団に入団したジンさんは、若くして未だに名曲と呼ばれる応援歌をいくつも制作。その後は一旦マリーンズ応援団を離れたものの、2010年に団長として復帰。前年にバラバラになってしまった応援団を再構築し、「マリーンズが本当に好きだから~」などとストレートな歌詞の新曲を大量に発表。「史上最大の下剋上」を後押ししたのは、間違いなくファンの声援とジンさんが手掛けた新応援歌だったはずだ。

ジントシオ氏

 その後、2015年にマリーンズ応援団を退団したジンさんは2018年から4年間は東北楽天ゴールデンイーグルスの応援プロデューサーを担当。現在は高校野球や大学野球をはじめ、さまざまなスポーツの応援歌を制作するなど幅広い分野で活躍し、今年の8月9日(野球の日)には初の著書「野球と応援スタイル大研究読本」が発売される。

 改めて振り返ってみるとやっぱり凄い。もはやマリーンズの人ではなく、“スポーツ応援のプロフェッショナル”という唯一無二の存在。スポーツ応援の神だ。

 だが、そんなジンさんと酒を酌み交わしていると「ジントシオはスポーツ応援のプロであると同時に、心の奥底では今なおマリーンズを応援し続けているのでは」と感じることがある。単純に最も長く携わっていたということもあるだろうが、マリーンズの話になると口調が熱くなり、途端に“どこの酒場にもいるオッサン”から“応援団長ジントシオ”に豹変する瞬間があるのだ。

 マリンで応援が聞けない今こそ、ジントシオの応援が恋しい。それは叶わぬ夢でも、場所を変えればジントシオの歌を聞くことくらいはできる。ほろ酔いの筆者は己の欲望のままに、ジンさんをカラオケへと誘った。

青春が鮮明に蘇る「ジントシオリサイタル」

 というわけでカラオケにやって来たが、筆者がマイクを握る気は毛頭ない。ジンさんに好き放題カラオケをしてもらい、それをただただ聞いていたかったのだ。ただ一点お願いしたのは「なるべくマリーンズ関連の曲縛りでやってほしい」ということだけ。さあ、ライトスタンドからカラオケに場所を移し、久々の“ジントシオリサイタル”開幕である。

 デンモクを手に取ったジントシオが選んだオープニングナンバーは「FLAG OF VICTORY(勝利の旗)」! 2010年の応援歌一新のタイミングで制作された楽曲で、イニングの合間などに歌った記憶がある。これ、カラオケに入っていたのか!

<♪さあ立ち上がって 勝利の旗を振り 声合わせて歌おう マリーンズのために>

 うわあ、懐かしい……! 拡声器をマイクに持ち替えたジントシオが、シンプルながらド直球な歌詞を、あの少しかすれた声で歌い上げる。そして脳内で鮮明に蘇るのは、2010年に下剋上達成のために奮闘するマリーンズナインの姿……ああ、この一曲でいきなり泣きそうだ!

©野島慎一郎

 ちなみにこの曲はジンさんが初めてフルコーラスで曲を書き、カラオケの作詞作曲者のクレジットにも「神俊雄」と表示される思い入れのある曲なのだそうだ。

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