二十歳の頃の僕は、どんな本を読んでいたのだろうか。ポール・ニザンの『アデン・アラビア』を読んだのはいつのことだったのか、記憶が定かではない。二十歳の僕に読ませたい最初の一冊は、小坂井敏晶『答えのない世界を生きる』。人間は考える葦であり、自分のアタマで考え、自分の言葉で自分の意見を述べることが何よりも大切だ。本書は、考えるということは、そもそもどういう営為なのか、肉を切らせて骨を切る覚悟で読者に迫ってくる。二十歳でこの本を読んでいたら、ひょっとしたら人生が変わっていたかも知れない、と思わせる迫力だ。後半の著者の半生の記も、ひたすらに面白い。二十歳に限らず、気持ちの若い皆さんに、ぜひともオススメしたい。
次は、スコット・アンダーソン『ロレンスがいたアラビア』。高校時代に観た映画「アラビアのロレンス」に嵌ってしまった僕は、大学時代に『知恵の七柱』などロレンス関連本をむさぼり読んだ記憶がある。しかし、あの疾風怒濤の時代のアラビアには、ロレンスと同じような境遇の若者がたくさんいたのだ。ドイツ人、アメリカ人、ユダヤ人、そして支配者のトルコ人、それぞれが個性的で尖っていて何と魅力的なことか。直ぐにでもあの冒険の時代のアラビアに飛んでいきたい気持ちになる。
最後は、更科功『宇宙からいかにヒトは生まれたか』。二十歳の頃の僕は、人間はどこから来てどこへ行くのか、はっきりした答えを持っていなかった。この宇宙百三十八億年の歴史を一気通貫した本があったら、悩みは随分軽くなったことだろう。著者は次のように述べる。「ヒトが絶滅しても、何事もなかったように地球上では生物が進化していく。太陽系が消滅しても、何事もなかったように宇宙は存在し続ける。(略)時間と空間を超越した眼がくらむような果てしない物語の中で、一瞬だけ輝く生命、それが私たちの本当の姿なのだろう」。この偶然と必然が織り成す壮大な物語を読めば、僕たちはもっと謙虚になれるのではないか。
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『答えのない世界を生きる』小坂井敏晶/祥伝社
『ロレンスがいたアラビア』上下 スコット・アンダーソン/白水社
『宇宙からいかにヒトは生まれたか』更科 功/新潮選書
