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日本ハム・中島卓也の、あのピンチでの声掛けがもたらしたかもしれないほんの少しの影響

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/08/05

 怪我、コロナで戦力の揃わない昨今。居るメンバーでなんとかしていくしか無いよね。そんなオールスター明け7月29日の楽天戦。ポンセの好投、近藤の勝ち越しタイムリー。少ないチャンスをものにして2対1の1点のリードで迎えた最終回。良い展開です。あとは1点を守り切るだけ。だがそれが難しいのよね……。マウンドにはルーキー北山亘基。

 コロナの猛威はブルペンにも波及していて、石川直也・堀瑞輝といった後ろを任せられる投手たちも離脱中という台所事情。じゃあ仕方ない、抑え経験もある北山が代役なのだろうな、そう思いながら見ていました。先頭打者を斬ったところでなんと投手交代。えっ?と驚くなかで登板した北浦竜次。一軍のこんな脂っこい場面は未経験。BIGBOSSのインスピレーション采配ここにといった感じでしょうか。ドキドキしているのはファンだけでなくきっと彼自身も……?

 迎える打線は中軸へ。まずは一発のある浅村。やや制球が荒れながらも、この日最速の150キロのまっすぐで三振を奪う。まずひとり、そしてあとひとり。このまま行けばプロ入り初セーブ。だがそうそうすんなり行かないのもまた野球の難しいところ。4番島内にうまくヒットを打たれ、続く茂木はフルカウントから歩かせてしまう。ランナーを出してから少し縮こまってしまってるかな……。流れる汗、こわばる表情。まずいなヤバイな、なんとか抑えてくれ。

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 現千葉ロッテの吉井理人氏いわく、マウンド上の投手に声掛けに行くタイミングは「2回くらい『ヤバイな』ということが続いたときに」なのだとか。まさにそんな状況でしょうか。いずれも追い込みながらの安打に四球。ヤバイ×2。球場の楽天ファンのボルテージも徐々に。否が応でもネガティブな妄想が頭をよぎってしまいます。マウンドの北浦のもとにコーチや内野陣が集まってくる。そう、間を取って少しでも落ち着かせてあげられたら。

投手が孤立無援に見えるときがけっこうあった

「マウンドに集まって何を話すの?」という昔からよく聞くファンの素朴な疑問。プロOBなどの話をきくと「たいした話はしてないよ」と言ってますね。もちろん守備位置の確認などもあるでしょうが、基本的には投手に対して「間をとる」という意味が大きいのだと。入れ込み過ぎてたり、地に足がついておらず周りが見えなくなっていたり。それを少しでも解すために声をかけたり、マウンドに集まったりするのですね。

 ちなみに打席に向かう鈴木大地選手。彼はロッテ時代から、例えば先輩投手に対しても「すいません、何もないけど来ました!」と言って間を取りに来ていたそうです。彼の人柄も感じさせるエピソードですね。ちょっとした間を作る必要性。それは試合の流れ、その機微を見る眼あってこそとも言えるでしょうか。さすがに内野のリーダー的な役割も担っていた選手だなと思います。

 ハムファンとしては、近年自チームにそういう選手の不在を痛感する場面も多かった気がします。田中賢介が引退し中島卓の出番が減り。中継を見ていると、解説者が「ここは野手が声掛けにいったほうが良いですね」「誰も間を取りに行かないんですかね」と言われるのを何度も見てました。経験不足、試合の流れを見られる野手の不在。遠慮もあるのかもしれない。若さ、未熟さ。誰も声をかけず、間を取らず。なんとなく投手が孤立無援に見えるときがけっこうあった気がするのですよね。

若いし未熟だけど、ほんのちょっとくらいは意識が変わってきたのかな

 今年のハム。マウンドの投手への声掛けはなんとなく増えたような気がしています。あくまで私の印象では。あるいは単純に投手陣が不安定でピンチが多いせいかもしれませんけれど(!)。でもマウンドに集まる場面、あるいはピンチが広がる一歩手前でひと声かけに行ったりすることがちょっと見られるようになったかなという。頼もしさにはまだ遠い、若いし未熟だけど、ほんのちょっとくらいは意識が変わってきたのかなと。

 例えば石井一成。年齢的にも彼はリーダー的な役割を期待される存在。やらなきゃいけない立場。試合にも多く出ており、本人にもそういう自覚があるのか比較的声掛けする場面が印象に残っています。

 たまにスタメンに名を連ねることがある谷内亮太。彼の声掛けは本当に絶妙のタイミングという印象です。例えば二つボールが続いた投手にさっと一声を掛けに行ったり。事が起こる前に未然に防ぐきっかけになっているのかもしれません。小売業において万引き防止には店員の声掛けが有効だという話はよく聞くけれど、谷内の声掛けはもしかしたらそれか。防犯ならぬ防点の声掛けか。

 野村佑希はとくに声掛けする場面が増えている気がします。今年は多くの試合で4番も任され、名実ともにチームの柱となってきています。前述の谷内から「行くタイミングが間違っていてもいいから、どんどん声掛けにいくべき」というアドバイスをもらったそう。試合の機微となる場面。声掛けを実践していくなかで、試合の流れや間を取るタイミングを学んでいくべきということでしょう。プレーだけでなくそういう部分も先輩からどんどん吸収して欲しいですよね。

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